BMW M2 / CS – F87Mの入口にして、Mの本質

BMWのMモデルといえば、M3やM5がまず思い浮かぶ方が多いでしょう。
でも2010年代後半、Mの世界に小さな爆弾が投げ込まれました。
F87型M2です。
これは全くもって廉価版Mではありません。
むしろ「Mとは何か」を最も純粋に体現したクルマだった、と言ったほうが正確です。
1Mクーペの記憶と、その空白

1シリーズMクーペ – E82【最後のFR直6コンパクトが纏った、Mの暴力】
BMW 1シリーズMクーペ(E82)は、コンパクトなFRボディにM3譲りの直6ターボを押し込んだ異端児。なぜこの車は生まれ、なぜ熱狂的に支持されたのかを読み解きます。
M2の話をするなら、まず1Mクーペ(E82)に触れないわけにはいきません。2011年に限定的に生産されたこのモデルは、1シリーズクーペにM3のパーツを惜しみなく投入した、ほとんど実験作のようなクルマでした。
コンパクトなボディに直6ツインターボ、後輪駆動。出来上がったのは、乗る人を選ぶけれど、選ばれた人には忘れられない一台です。
ただ、1Mクーペは正式な「Mナンバー」を冠していませんでした。
M GmbHが手がけたモデルではあるものの、あくまで「1シリーズM」という位置づけ。生産台数も約6,300台と少なく、すぐに中古価格が高騰しました。つまり、コンパクトMへの需要はあるのに、正規のラインナップには穴が空いていた。M2はその空白を埋めるために生まれたモデルです。
なぜM2が必要だったのか

M2 / CS – G87【Mの末弟が背負った、最後の純エンジン世代という重荷】
G87型M2とその頂点であるCS。S58エンジンを積む最小Mモデルが、電動化前夜にどんな意味を持つのかを開発背景から読み解きます。
2010年代半ば、BMWのMラインナップはある種の肥大化に直面していました。M3(F80)は直6ツインターボで先代のV8から路線変更し、M4(F82)はクーペ専用の名前を得て独立。M5やM6は快適性とパフォーマンスの両立を志向し、車重は増える一方でした。どれも速い。でも「軽くて小さくて楽しい」という、かつてのMの原点に近いモデルがなかったのです。
2シリーズクーペ(F22)は、BMWのラインナップの中で最後のFR・コンパクトクーペという貴重な存在でした。ホイールベースは約2,690mm。M3/M4より100mm以上短い。この器にMのエンジンとシャシーを詰め込めば、1Mクーペが示した「小さなMの歓び」を正規ラインナップとして成立させられる。M2の企画は、そういう判断から始まっています。
初期型M2 ── N55エンジンという選択

BMW M3 – F80【直6ターボへの転換が突きつけた、M3の本質とは何か】
自然吸気直6からツインターボ直6へ。F80型M3は歴代最大の転換を果たしながら、M3とは何かという問いに正面から向き合った世代です。Competitionの研磨、CSの極限まで含めて読み解きます。
2015年末に発表されたM2(F87)は、ひとつ意外な選択をしています。エンジンがN55B30だったことです。当時のM3/M4が搭載していたのはS55という専用ユニット。M2にはそれではなく、M235iなどにも使われていたN55系の直列6気筒ターボをベースに、専用チューニングを施したものが載りました。
最高出力370ps、最大トルク465Nm(オーバーブースト時500Nm)。数字だけ見ればM4の431psに届きませんが、これには理由があります。まず価格。M2はMラインナップの入口として、M4より明確に安くなければならなかった。S55を載せればコストが跳ね上がります。もうひとつは、N55のほうがトルク特性が穏やかで扱いやすいという判断です。
結果として、初期型M2は「速さで圧倒する」タイプではなく、「ドライバーが自分の腕で引き出す」タイプのMに仕上がりました。車重は約1,495kg。決して軽量とは言えませんが、ショートホイールベースと後輪駆動の組み合わせが、数字以上の俊敏さを生んでいます。
Competition ── S55搭載で本性が変わる

BMW M3 – G80【電動化前夜、最後の直6ツインターボが吠える】
G80型M3は賛否を巻き起こした巨大キドニーグリルの奥に、最後かもしれない純エンジン直6ツインターボを積んだ。なぜBMWはここまで攻めたのか、その背景を読み解きます。
2018年、M2は大きなアップデートを受けます。M2 Competitionの登場です。最大の変更点は、エンジンがM3/M4と同じS55B30に換装されたこと。最高出力は410ps、最大トルクは550Nm。初期型から40psの上乗せですが、変わったのは数字だけではありません。
S55はN55とは根本的にキャラクターが違います。ツインスクロールターボを2基備え、高回転域での伸びが明らかに鋭い。レスポンスも段違いです。初期型M2が「扱いやすさの中に潜む速さ」だったとすれば、Competitionは「最初から本気のM」でした。
シャシー側も手が入っています。フロントのストラットタワーバーが追加され、サスペンションのブッシュも強化。ブレーキはM4と同じ大径ローターに変更されました。要するに、エンジンだけでなく足回りも含めて「M3/M4の弟」から「M3/M4の凝縮版」に格上げされたわけです。
ただし、この変更を歓迎しない声もありました。N55時代のM2には、少し荒削りだけど親しみやすいキャラクターがあった。Competitionは確かに速いけれど、その「ちょうどよさ」が薄れたのではないか、と。この評価の割れ方自体が、M2というクルマの面白さを物語っています。
CS ── F87の到達点

M3 Competition Touring / CS Touring – G81【ついに実現した、M3初のワゴン】
M3史上初のツーリング(ワゴン)として登場したG81。なぜ30年以上も作られなかったのか、そしてなぜ今なのか。開発背景と存在意義を読み解きます。
2020年、F87型M2の最終進化形としてM2 CSが登場しました。世界限定2,200台。S55エンジンはさらにチューニングされ、最高出力450psを発生します。これはM4 Competitionと同等の数値です。コンパクトMの器に、フルサイズMと同じ心臓。冷静に考えると、かなり過激な仕様です。
CSの特徴はエンジンだけではありません。ボンネット、ルーフ、リアスポイラー、フロントスプリッターにCFRP(炭素繊維強化プラスチック)を採用し、車重を約1,470kgまで削っています。アダプティブMサスペンション、機械式LSD、専用セッティングのDSC(横滑り防止装置)。すべてが「サーキットで速く走る」ために最適化されています。
インテリアも簡素化の方向に振られました。アルカンターラ巻きのステアリング、軽量バケットシート。華美な装飾ではなく、機能に直結する要素だけを残すという思想が貫かれています。
M2 CSは、F87型が持っていたポテンシャルの上限を示すモデルでした。限定生産ゆえに新車価格も高く、中古市場でもプレミアがついています。1Mクーペと同じ道をたどっている、と言えるかもしれません。
小さなMが証明したこと

M3 – E90 / E92 / E93【V8を積んだ、最も異端のM3】
4代目M3は歴代で唯一の自然吸気V8を搭載した異端児。なぜBMW Mは直6を捨てたのか。S65エンジンの背景と、このモデルが系譜に残した意味を読み解きます。
F87型M2は、3つのグレードを通じて一貫したメッセージを発していました。それは「Mの本質はサイズではない」ということです。
M3やM5が大型化・高性能化・電子制御の高度化に向かう中で、M2は逆方向のベクトルを持っていました。短いホイールベース、後輪駆動、マニュアルトランスミッションの設定(DCTも選択可能)。現代のMモデルとしては異例なほど、ドライバーとクルマの距離が近い。
そしてこの「小さなM」の成功は、BMWに対してひとつの事実を突きつけました。エンスージアストが求めているのは、必ずしも最大出力や最新テクノロジーではない。運転する歓びの密度こそが、Mの価値の核心なのだ、と。
後継のG87型M2は、さらにパワフルになり、ボディも大きくなりました。それが正しい進化なのかどうかは、まだ評価が定まっていません。
ただ、F87型が残した基準——コンパクトなMはこうあるべきだ、という基準は、今後も長くベンチマークであり続けるはずです。
M2は、Mの入口として企画されました。でも結果的に、Mの本質に最も近い場所にいたのかもしれません。
M2の系譜


BMW M2 / CS – F87【Mの入口にして、Mの本質】
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クルマのかるた
煽りだけで、クルマがわかるか。



