BMW M3 – G80【電動化前夜、最後の直6ツインターボが吠える】

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  • 8分で系譜を理解
BMW M3 – G80【電動化前夜、最後の直6ツインターボが吠える】

M3の歴史を語るとき、たいていは「E30が原点」「E46が完成形」「E90でV8に行った」といった具合に、エンジンの話がセットになります。

それは裏を返せば、M3というクルマがパワートレインの選択によって性格を大きく変えてきた証拠でもあります。

そして2021年に登場したG80型は、おそらく「純粋な内燃機関だけで成立する最後のM3」になる可能性が高い。

だからこそ、このクルマには語るべきことが多いのです。

巨大グリルが突きつけた問い

G80型M3を語るなら、まずあの顔の話を避けて通れません。

2020年のワールドプレミア時、縦に拡大されたキドニーグリルは世界中で賛否両論を巻き起こしました。

SNSは荒れに荒れ、長年のBMWファンほど拒否反応を示した印象があります。

ただ、あのデザインには明確な意図がありました。BMWのデザイン責任者だったドマゴイ・ドゥケッチは、M3/M4を「通常の3シリーズ/4シリーズとは完全に別のクルマとして認識させたかった」と繰り返し語っています。

つまり、見間違えようのない差別化です。

歴代M3は、ベース車両との外観差が比較的おとなしいモデルも多かった。

ブリスターフェンダーやリップスポイラーで差をつけてはいたものの、パッと見で「あ、M3だ」とわかる人は詳しい人に限られていました。G80はそこを根本から変えようとした。

好き嫌いはともかく、「誰が見てもM3だとわかる」という目標は確実に達成しています。

S58エンジンという到達点

G80の心臓部は、S58型3.0リッター直列6気筒ツインターボです。先代F80型のS55から世代交代したこのエンジンは、標準仕様で480PS、Competitionで510PSを発生します。数字だけ見ると順当な進化に見えますが、中身はかなり変わっています。

S55では課題とされていた低回転域でのレスポンスの鈍さが、S58では大幅に改善されました。具体的には、鍛造クランクシャフトの採用や冷却系の刷新によって、高回転まで回したときの伸び感と低中速のトルク感を両立させています。最大トルク650Nmという数字は、かつてのV8搭載M3(E90系)を軽く凌駕するものです。

このS58は、X3 MやX4 Mにも搭載されていますが、M3/M4向けではセッティングが異なります。BMWのMパワートレイン開発部門は、車両の重量配分やシャシー特性に合わせてエンジンマッピングを個別に調整していると公表しています。同じエンジン型式でも、載るクルマによって味付けが違う。これはM社が昔から大切にしてきた流儀です。

MTの存続と4WDの導入

G80型M3で見逃せないのは、6速MTが残されたことです。標準仕様の480PSモデルには6速MTが設定されました。2021年という時代に、500PS近いセダンにマニュアルトランスミッションを用意するメーカーはほとんどありません。

ただし、ここには構造的な事情もあります。MTが選べるのは後輪駆動の標準仕様のみで、Competition(510PS)は8速ATのみ。さらに後から追加されたM xDrive(4WD)モデルもAT限定です。要するに、MTは「選べるけれど、主力ではない」という位置づけでした。

一方、M3の歴史で初めて4WDが設定されたことは、大きな転換点です。M xDriveと呼ばれるこのシステムは、通常時は後輪駆動に近いトルク配分で走り、必要に応じて前輪にも駆動力を送ります。さらにDSCをオフにすれば完全な後輪駆動モードにも切り替えられる。

これはAMG C63やアウディRS5といった競合が全車4WDに移行していた流れへの回答でもありますが、「後輪駆動を捨てたくない」というM社の意地も見えます。4WDにしたけれど、FRにも戻せる。この両立は、M3というクルマのアイデンティティを守るための妥協点だったのでしょう。

CSという頂点の意味

2023年に追加されたM3 CSは、G80型の到達点と言える存在です。エンジンは同じS58ながら、出力は550PSまで引き上げられました。Competitionから40PS上乗せですが、重要なのは馬力の数字よりも軽量化のほうです。

カーボン製のボンネット、トランクリッド、フロントバケットシート、さらにリアシートの簡素化などにより、Competitionから約20〜25kgの軽量化を実現しています。数字だけ見ると地味に思えるかもしれません。でも1,800kgを超える車両重量のクルマで、すでに最適化が進んだ状態からさらに削るのは簡単ではない。

足回りも専用セッティングが施され、アダプティブMサスペンションのダンパー特性はより硬質に。リアのアンチロールバーも強化されています。M xDriveは標準装備で、MTの設定はありません。CSは「速さの極限」を目指したモデルであり、趣味性よりもラップタイムを優先した結果です。

歴代M3におけるCSやCRT、CSLといった限定・軽量モデルは、常にその世代の「本当はここまでやりたかった」を体現してきました。G80のCSも例外ではなく、S58エンジンとG80シャシーの組み合わせが持つポテンシャルの上限を示すモデルとして位置づけられています。

競合が変わった時代のM3

G80型M3が戦う相手は、先代までとは少し違います。直接のライバルであるメルセデスAMG C63は、W206世代で直列4気筒ハイブリッドに移行しました。かつてはV8を積んでいたクルマが4気筒になった。この変化は、G80が直6ツインターボを維持していることの意味を際立たせています。

アウディRS5も次世代ではプラットフォームの大幅な変更が予想されており、従来型のハイパフォーマンスセダンという土俵自体が揺らいでいます。テスラ・モデル3パフォーマンスのようなEVセダンが加速性能だけなら互角以上という現実もある。

こうした環境の中で、G80型M3は「大排気量ではないが、内燃機関の直6で勝負する最後の世代」という独特の立ち位置を獲得しました。BMWは次世代M3に電動化パワートレインを採用することを示唆しており、G80が純エンジンM3の最終章になる可能性は高いと見られています。

最後の純エンジンM3が残すもの

G80型M3は、デザインで物議を醸し、4WDを初導入し、MTを残しつつもATを主軸に据え、CSで550PSまで引き上げた。やっていることは多岐にわたりますが、一本の筋は通っています。それは「内燃機関の直6でできることを全部やり切る」という意志です。

E30のS14、E36のS50、E46のS54、E90のS65 V8、F80のS55、そしてG80のS58。M3の系譜はエンジンの系譜でもありました。もし次のM3が電動化されるなら、S58は「M3専用エンジン」という思想の最終到達点として記憶されることになるでしょう。

あの巨大なグリルの奥で、直列6気筒ツインターボが吠えている。それが当たり前でなくなる時代が、もうすぐそこまで来ています。

だからこそG80型M3は、好き嫌いを超えて、記録しておくべきクルマなのだと思います。

M3の系譜

小鍛治康人(やすと)

 

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小鍛治康人(やすと)

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hodzilla51

クルマの系譜を追ってたら、いつの間にかサイトになっていました

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