M3 – E36【初代の熱狂から、大人の速さへ舵を切った二代目】

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M3 – E36【初代の熱狂から、大人の速さへ舵を切った二代目】

初代M3、つまりE30型は、グループAホモロゲーションのために生まれた、ほとんどレーシングカーのような存在でした。

4気筒の高回転ユニット、張り出したブリスターフェンダー、あらゆるものが「勝つため」に設計されていた。

では、その後継であるE36型M3は何のために生まれたのか。答えは意外とシンプルです。

「速いけど、毎日乗れるBMW」を作るためでした。

E30 M3の成功が残した宿題

1986年に登場したE30型M3は、モータースポーツで圧倒的な戦績を残しました。DTM(ドイツツーリングカー選手権)をはじめ、世界中のツーリングカーレースで勝ちまくった。商業的にも成功し、当初の予定を大きく超える約1万7000台以上が生産されています。

ただ、E30 M3はあくまで「ホモロゲーションモデル」でした。レースに出るために最低限の台数を市販する、という発想が出発点にある。乗り心地は硬く、室内は狭く、日常の快適性は二の次。それが魅力でもあったわけですが、BMWのMディビジョンが次に目指したのは、もう少し広い顧客層でした。

1990年代に入ると、ツーリングカーレースのレギュレーションも変わりつつありました。グループAの時代が終わりに近づき、ホモロゲーション目的で尖ったロードカーを作る必然性が薄れていった。M3という名前を残しながら、その中身の意味を再定義する必要があったのです。

直6への転換が意味したこと

E36型M3の最大の変化は、エンジンが4気筒から直列6気筒に変わったことです。1992年の欧州デビュー時に搭載されたのは、S50B30と呼ばれる3.0リッター直6。E30の2.3リッター4気筒(S14)とは、まるで別の哲学のエンジンでした。

S14は高回転でパワーを絞り出す、いかにもレース由来のユニットだった。一方のS50は、BMWが誇る直列6気筒のスムーズさをベースに、個別スロットルバルルやVANOS(可変バルブタイミング機構)といった技術で高出力を実現しています。初期型の欧州仕様で286馬力。数字だけ見れば順当な進化ですが、その出力の出し方がまるで違う。

低回転域からしっかりトルクが立ち上がり、高回転まで淀みなく回る。これは日常域での扱いやすさに直結します。Mディビジョンのエンジニアたちは、「レースのために我慢して乗る車」から「速さと洗練を両立させた車」へと、M3の性格を明確にシフトさせたわけです。

なお、北米仕様は当初S50B30のデチューン版であるS50B30US(240馬力)が搭載され、後に3.2リッターのS52B32(240馬力)へ換装されました。欧州仕様とはエンジンの素性がかなり異なり、北米のM3オーナーが欧州仕様を羨む構図は、この世代から本格化したとも言えます。

大きくなった車体と、変わる「M」の立ち位置

E36型3シリーズ自体が、E30から大幅にサイズアップしていました。ホイールベースは伸び、車幅も広がり、車重も増えた。M3もその例外ではありません。E30 M3の戦闘的なコンパクトさは失われ、代わりに得たのは安定感のある走りと、大人が快適に座れる室内空間でした。

足回りはフロントにストラット、リアにはセントラルアームと呼ばれるマルチリンク式を採用。E30のセミトレーリングアームから大きく進化し、限界域でのコントロール性が向上しています。ただし、E30 M3のようなダイレクトで荒々しい手応えは薄まった。ここが評価の分かれるところです。

ボディ形態も多様化しました。E30 M3は2ドアクーペのみでしたが、E36ではクーペに加えてセダン、そしてコンバーチブルまでM3が設定されています。これは「M3をより多くの人に届ける」という商品戦略の表れであり、同時に「M3はもはやホモロゲマシンではない」という宣言でもありました。

1995年のアップデートと、S50B32の真価

1995年、欧州仕様のM3はエンジンをS50B32(3.2リッター、321馬力)にアップデートします。排気量の拡大に加え、ダブルVANOS(吸排気両方の可変バルブタイミング)が採用され、全域でのトルク特性がさらに改善されました。

この321馬力という数字は、当時の自然吸気3.2リッターとしてはかなりの高出力です。リッターあたり約100馬力。しかもそれを、日常的に使える回転域で発揮できるのがポイントでした。レブリミットまで回せば官能的なサウンドを聴かせつつ、街中では穏やかに流せる。この二面性こそが、E36 M3の本質だったと言えます。

トランスミッションは5速MTが基本で、後期には6速MTも用意されました。SMG(セミオートマチック・ゲトリーベ)と呼ばれるシーケンシャルギアボックスも一部市場で選択可能でしたが、これは初期のシステムであり、完成度としては後のSMG IIに譲る部分があります。

レースでの存在感と、GTRという頂点

E36 M3はホモロゲーション目的で生まれた車ではありませんが、レースと無縁だったわけではありません。むしろ、ツーリングカーレースでは引き続き重要な戦力でした。特にBTCC(イギリスツーリングカー選手権)やIMSA、各国のGTレースで活躍しています。

その頂点に位置するのが、M3 GTRです。レース用に少数が製作されたこのモデルは、ロードカーのM3とは次元の異なる存在でした。ただし、E36世代のGTRは後のE46 M3 GTR(V8搭載)ほどの知名度はなく、どちらかといえば通好みの存在です。

また、軽量モデルとして知られるM3 Lightweight(北米市場向け、約126台生産)も忘れてはいけません。エアコンやオーディオを省き、軽量ドアパネルを採用するなど、E30 M3スポーツエボリューションの精神を受け継ぐような仕様です。こうした限定モデルの存在が、E36 M3を単なる「快適になったM3」で終わらせなかった一因でもあります。

E30とE46の間で、過小評価されがちな世代

正直に言えば、E36 M3はM3の歴史の中でやや地味な存在として語られがちです。前にはモータースポーツ直系の伝説的なE30、後ろには「最も完成されたM3」と称されるE46がいる。どうしても挟まれてしまう。

しかし、E36がなければE46の完成度はなかったはずです。直列6気筒への転換、快適性と走行性能の両立、ボディバリエーションの拡大。これらはすべてE36で始まった方向性であり、E46はそれを磨き上げたモデルにほかなりません。

もうひとつ重要なのは、E36 M3が「M3とは何か」を再定義した世代だということです。ホモロゲマシンから、高性能グランドツアラーへ。レースに勝つための道具から、速さを日常に溶け込ませる車へ。この転換がなければ、M3は一部のマニアだけのものにとどまっていたかもしれません。

E36型M3は、派手な武勇伝こそ少ないかもしれません。でも、M3というブランドが今日まで続いている理由の一端は、間違いなくこの世代にあります。

熱狂から持続可能な速さへ。その橋渡しをした一台です。

M3の系譜

小鍛治康人(やすと)

 

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小鍛治康人(やすと)

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hodzilla51

クルマの系譜を追ってたら、いつの間にかサイトになっていました

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