ヴァンテージ – AM701【アストンがAMGの心臓で再起動した一台】

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ヴァンテージ – AM701【アストンがAMGの心臓で再起動した一台】

アストンマーティンが他社のエンジンを積む

それだけ聞くと、なんだか身売りのような印象を受けるかもしれません。

でも2018年に登場した2代目ヴァンテージ(AM701)は、その先入観をきれいにひっくり返した一台でした。メルセデスAMG製の4.0L V8ツインターボを心臓に据えながら、走りの味はまぎれもなくアストンマーティン。

この車を語るには、まず「なぜ自社製エンジンを手放したのか」から始める必要があります。

アストンが迫られていた選択

2010年代のアストンマーティンは、率直に言って苦しい時期でした。

主力のV8ヴァンテージは2005年デビューのまま大幅な刷新がなく、DB9系のプラットフォームも長寿化が進んでいました。ブランドとしての魅力は健在でも、商品としての鮮度は確実に落ちていたのです。

そこに追い打ちをかけたのが、排ガス規制と燃費規制の厳格化です。自然吸気の大排気量エンジンを自社で開発し続けるには、莫大な投資が必要になります。年間数千台規模のメーカーにとって、それは現実的な選択肢ではありませんでした。

2013年にメルセデス・ベンツ(ダイムラー)がアストンマーティンの株式を取得し、技術提携が始まります。この提携の柱のひとつが、AMG製パワートレインの供給でした。ただし、これは単なるエンジンの「お下がり」ではありません。アストン側はエンジンの搭載位置、セッティング、補機類の配置まで自社で設計し直しています。

V8ヴァンテージからの断絶と継承

先代のV8ヴァンテージ(2005〜2017年)は、フォード傘下時代に開発されたモデルです。ジャガー由来のアルミプラットフォームに、アストン自社製の4.3L(後に4.7L)V8自然吸気エンジンを搭載。ポルシェ911を意識した「エントリー・アストン」として、ブランドの販売台数を支えた功労者でした。

ただ、12年間の長期生産の間に、ライバルたちは世代交代を重ねています。ポルシェ991、ジャガーFタイプ、そしてAMG GTという強敵が次々に現れる中、先代ヴァンテージはどうしても古さを隠せなくなっていました。

2代目ヴァンテージに求められたのは、単なるモデルチェンジではなく、アストンマーティンという会社が次の時代に進めることの証明でした。新CEOアンディ・パーマーのもとで策定された「セカンド・センチュリー・プラン」の中核モデル。DB11に続く、新世代アストンの第2弾という位置づけです。

AMGの心臓、アストンの味つけ

搭載されるのは、メルセデスAMGが開発したM177型4.0L V8ツインターボ。AMG GTやC63にも使われるユニットですが、ヴァンテージ用にはアストン独自のチューニングが施されています。最高出力510PS、最大トルク685Nm。数字だけ見ればAMG GT Sとほぼ同等ですが、出力特性やレスポンスはかなり異なります。

アストンのエンジニアリングチームは、ターボのブースト制御やエキゾーストのサウンドチューニングを自社で詰め直しています。AMG GTがどちらかといえば「ドカン」と来る暴力的な加速感を持つのに対し、ヴァンテージは中回転域のトルクの出方がよりなめらかで、GT的な余裕を残しているのが特徴です。

トランスミッションはZF製8速ATをリアトランスアクスルとして搭載。つまりエンジンはフロントミッドに、ギアボックスは後軸側に配置する、いわゆるトランスアクスル方式です。これにより前後重量配分は50:50に近い数値を実現しています。この構造自体は先代から受け継いだものですが、新設計のアルミ接着構造ボディとの組み合わせで、剛性と軽量化の両立が大幅に進みました。

デザインが語るもの

エクステリアデザインを手がけたのは、当時アストンのデザインディレクターだったマレク・ライヒマン。DB10(映画『007 スペクター』用のワンオフ)の流れを汲むアグレッシブな造形は、先代のクラシカルなたたずまいから大きく舵を切っています。

特に印象的なのは、大きく口を開けたフロントグリルと、ボンネットからリアに向かって絞り込まれるボディラインです。先代ヴァンテージが「小さなDB9」だったとすれば、2代目は「DB11の弟」ではなく「独立したスポーツカー」として自分の顔を持とうとしたデザインだと言えます。

好みは分かれたかもしれません。特に発表直後は「アストンらしくない」という声もありました。ただ、時間が経つにつれて評価は安定し、現在ではアストンの新世代を象徴するデザインとして定着しています。

走りの評価と立ち位置

ヴァンテージAM701の走りについて、多くの自動車ジャーナリストが共通して指摘したのは「想像以上にスポーツカーだった」ということです。アストンマーティンといえばグランドツアラーのイメージが強いですが、このヴァンテージはかなり攻めた足回りのセッティングで登場しました。

ステアリングはシャープで、ノーズの入りが速い。リアの追従性も高く、コーナリング中の姿勢変化が読みやすい。ポルシェ911やAMG GTと真正面から張り合えるハンドリングを持っています。一方で、乗り心地はやや硬め。GTカーとしてのんびり流すには少しストイックすぎるという評価もありました。

ここは意図的な割り切りだったはずです。DB11がグランドツアラーの役割を担う以上、ヴァンテージはスポーツ寄りに振らなければラインナップとして意味がない。その判断は正しかったと思います。ただ、初期モデルではZF製8速ATの変速フィールに若干の洗練不足が指摘され、後のアップデートで改善されています。

2024年の大幅改良、そしてV12の復活

2024年、ヴァンテージは大幅なアップデートを受けました。エンジンは同じM177型ベースながら、出力は665PSまで引き上げられています。先代比で155PSの上乗せ。これはもう「改良」というより別物に近い変化です。

シャシーも全面的に見直され、ダンパー、スプリング、スタビライザーがすべて新設計に。電子制御ディファレンシャルの制御ロジックも刷新されています。デザインもフロントまわりを中心にリフレッシュされ、より精悍な顔つきになりました。

さらに注目すべきは、V12ヴァンテージの限定生産です。5.2L V12ツインターボを搭載した最終限定モデルは、ヴァンテージという車名の振れ幅の大きさを象徴する存在でした。V8で始まった2代目が、V12で頂点を打つ。この構図はアストンマーティンらしいドラマチックさがあります。

「借り物のエンジン」が証明したこと

ヴァンテージAM701を振り返ると、この車が証明したのは「エンジンの出自はブランドの本質を決めない」ということだったのではないでしょうか。

AMG製V8を積んでいても、ヴァンテージはAMG GTとはまったく違う車です。ボディ設計、シャシーセッティング、サウンドチューニング、そして何よりドライバーに伝わる「味」が違う。エンジンはあくまで素材であり、料理の味を決めるのはシェフの腕だということを、この車はきっちり示しました。

経営的に苦しい時期を経て、技術提携という現実的な選択をしながらも、自分たちの車を作り続ける。ヴァンテージAM701は、アストンマーティンが「生き延びるためだけ」ではなく「次に進むため」に作った車です。

だからこそ、このモデルには単なるエントリーモデル以上の意味があるのだと思います。

ヴァンテージの系譜

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2018年〜
小鍛治康人(やすと)

 

ヴァンテージ – AM701【アストンがAMGの心臓で再起動した一台】

AstonMartin

小鍛治康人(やすと)

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hodzilla51

クルマの系譜を追ってたら、いつの間にかサイトになっていました

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