エキシージ S – S3【345馬力が証明した「軽さの暴力」の最終形】

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エキシージ S – S3【345馬力が証明した「軽さの暴力」の最終形】

エキシージというクルマの本質は「エリーゼをもっと過激にしたら何が起きるか」という実験の連続にあります。

その実験が、2012年に一つの極点に達しました。トヨタ製3.5L V6にスーパーチャージャーを載せ、345馬力。車重は1200kgを切る。数字だけ見ても異常ですが、実際に走らせるとその異常さの意味がはっきりわかる。

エキシージ S、シリーズ3。

ロータスが「軽さ」という哲学にどこまで馬力を注ぎ込めるかを試した、最も攻撃的な回答です。

エリーゼの延長線上にあるもの

エキシージの出自を理解するには、まずエリーゼとの関係を押さえておく必要があります。1996年に登場したエリーゼは、アルミ押出材を接着で組み上げたバスタブシャシーに軽量なFRPボディを被せた、徹底的に軽いミッドシップスポーツでした。その思想は明快で、パワーで速さを稼ぐのではなく、軽さで速さを成立させる。

エキシージは、そのエリーゼをベースにルーフを固定し、空力を強化し、よりサーキット志向に振ったモデルとして2000年に初代(S1)が登場しています。つまり出発点からして「エリーゼの過激版」であり、快適性や日常性よりも走行性能に全振りした存在でした。

S1はローバーKシリーズの1.8Lエンジン、S2ではトヨタの1.8L(2ZZ-GE)を搭載。どちらも200馬力に届かない程度のパワーでしたが、車重が800kg台だったので十分以上に速かった。ただ、ロータスはここで満足しなかった。というより、満足できない事情がありました。

なぜV6が必要だったのか

2010年代に入る頃、ロータスは経営的にも商品的にも転換期を迎えていました。当時のCEOダニー・バハーのもとで大規模な拡大路線が打ち出され、エスプリ後継を含む複数の新型車構想が発表されています。その多くは実現しませんでしたが、既存モデルの強化は着実に進められていました。

エキシージにV6を載せるという判断は、単にパワーが欲しかったからではありません。ロータスのラインナップにおいて、エヴォーラの下に位置するエキシージにも「上位グレードとしての説得力」を持たせる必要がありました。エヴォーラがグランドツアラー的な性格を持つ以上、エキシージにはよりハードコアな走りの頂点を担わせたい。その役割を果たすには、1.8Lでは限界がありました。

選ばれたのは、トヨタの2GR-FE型3.5L V6です。これはエヴォーラにも搭載されていたユニットで、ロータスにとっては実績のあるエンジンでした。ただしエキシージ Sでは、ここにハリアー・パフォーマンス製のスーパーチャージャーを追加しています。結果、最高出力345馬力、最大トルク400Nm。エヴォーラ Sと同等のパワーを、はるかに軽いボディに搭載するという、かなり乱暴な構成が成立しました。

1176kgに345馬力という暴力性

エキシージ S(S3)の乾燥重量は公称で約1080kg、実測の車両重量でもおよそ1176kg程度とされています。345馬力を1176kgで割ると、パワーウェイトレシオはおよそ3.4kg/ps。この数字は、同時代のポルシェ911カレラSやフェラーリ458イタリアに匹敵するか、むしろ上回る水準です。

しかもロータスの場合、その軽さの中身が違います。大排気量や大パワーで重さを帳消しにするのではなく、軽さがベースにあるところにパワーを足している。加速のキレ、ブレーキングの安定、コーナーでの身のこなし——すべてが「軽いからこそ成立する」質感を持っています。

0-100km/h加速は公称3.8秒。この数字自体も十分に速いのですが、体感的にはもっと暴力的に感じるという声が多い。それは、遮音も最小限で、ドライバーとクルマの間に挟まるものがほとんどないからです。ステアリングの反応、シフトの手応え、エンジンの吹け上がり——すべてがダイレクトで、フィルターがない。速さの「生々しさ」が、この車の本質です。

シャシーとエアロの進化

S3世代のエキシージは、プラットフォームをエリーゼ/エヴォーラ系のアルミバスタブシャシーから発展させています。V6の搭載に対応するためにリアサブフレームが強化され、エンジンマウントの位置も変更されました。見た目にはS2の延長に見えますが、構造的にはかなり手が入っています。

外観で最も目立つのは、大型化されたリアウイングとフロントスプリッター、そしてリアディフューザーです。ロータスは公式にダウンフォース量を公表しており、高速域で相当量の空力的押さえ付けが効くとされています。これはサーキットでのラップタイム短縮に直結する要素で、単なるドレスアップではありません。

サスペンションはダブルウィッシュボーン式で、ビルシュタイン製ダンパーを採用。エイリアス・ダイナミクス(ロータスのエンジニアリング部門)がチューニングを担当しており、公道でもサーキットでも破綻しにくいセッティングが施されています。ただし「快適」かと聞かれれば、答えはノーです。路面の凹凸は容赦なく伝わるし、長距離を走れば疲れる。それは設計思想として意図的にそうなっています。

評価の割れどころと限界

エキシージ Sは、自動車ジャーナリストの間でもかなり高い評価を受けました。英国のEvo誌やAutocar誌は繰り返しこの車を年間ベストに近い位置に挙げています。「ドライバーズカーとしての純度が異常に高い」というのが、おおむね共通した評価です。

ただし、万人向けではないことも明白でした。まず、エアコンやオーディオは最低限。乗降性は劣悪で、ルーフが固定されている分、エリーゼ以上に乗り込みにくい。さらにV6搭載によって重心がやや高くなり、初期のエキシージが持っていた「カート感覚」は薄れたという指摘もあります。

また、スーパーチャージャーの特性上、パワーデリバリーはリニアですが、低回転域からトルクが立ち上がるため、ウェット路面やタイトコーナーでは繊細なスロットルコントロールが求められます。ロータスの軽量車にV6のトルクを合わせるという組み合わせは、ドライバーの腕を選ぶ面がありました。

価格面でも、S2時代と比べると大幅に上昇しています。日本市場では800万円台後半からのスタートで、オプションを入れると1000万円を超えることも珍しくなかった。ケータハムやアリエルといった「もっと安くて軽い選択肢」と比べると、エキシージ Sは明確に上のレンジに移行していました。

エキシージ史における到達点

エキシージ Sの後、ロータスはさらにエキシージ Cupシリーズ(Cup 380、Cup 430など)を展開し、パワーと空力をさらに先鋭化させていきます。最終的にはエキシージ Cup 430がシリーズの頂点となり、430馬力にまで到達しました。

しかし、エキシージ Sが持っていた意味は単なる馬力の数字ではありません。「ロータスが初めてV6スーパーチャージャーをエキシージに載せた」という事実そのものが、このブランドの哲学に対する大きな問いかけでした。軽さで勝つはずのロータスが、パワーで殴りにいく。それは矛盾ではなく、「軽さの上にパワーを乗せたらどうなるか」という実験の答えだったわけです。

そしてその答えは、かなり説得力のあるものでした。エキシージ Sは、パワーウェイトレシオだけでなく、ドライビングの密度という点で、同時代のどんなスーパーカーとも違う体験を提供していました。数千万円のスーパーカーが電子制御で速さを演出する時代に、1000万円以下でドライバーの技量がそのまま速さに変換される。その価値は、今後ますます得がたいものになるはずです。

エキシージ Sは、ロータスが「軽さの暴力」を最も純粋な形で成立させた一台です。これ以降のCupシリーズはさらに過激ですが、V6エキシージの原点としてのS3の存在感は、系譜の中で決して薄れることはないでしょう。

エキシージの系譜

小鍛治康人(やすと)

 

エキシージ S – S3【345馬力が証明した「軽さの暴力」の最終形】

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小鍛治康人(やすと)

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hodzilla51

クルマの系譜を追ってたら、いつの間にかサイトになっていました

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