エキシージ Sport 350/380/430【軽さの果てに到達した、公道を走るレーシングカー】

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エキシージ Sport 350/380/430【軽さの果てに到達した、公道を走るレーシングカー】

1トンを切るボディに400馬力超のエンジンを載せる。文字にすると正気の沙汰ではないですが、ロータスはそれを本気でやりました。エキシージ Sport 350/380/430は、「軽さこそ正義」というロータスの信条を、もはや極限まで煮詰めたシリーズです。しかもこれ、サーキット専用車ではなく公道走行可能なロードカーとして売られていた。そこがこの車の一番おかしいところであり、一番面白いところでもあります。

エキシージという車の立ち位置

まず前提を整理しておきます。エキシージは、ロータスのラインナップにおいて「エリーゼのハードコア版」という位置づけで生まれた車です。初代は2000年に登場し、エリーゼにルーフを被せてサーキット寄りの味付けにしたモデルでした。

2004年からの2代目(シリーズ2)でトヨタ製エンジンを搭載し、2012年のシリーズ3ではV6スーパーチャージャーを積むようになります。ここでエキシージは、軽量ミッドシップという基本構成はそのままに、パワーの領域が一段上がりました。

つまりSport 350/380/430が登場する2015年以降というのは、エキシージがすでに「軽くて速い車」から「軽くてとんでもなく速い車」へ変貌を遂げた後の話です。ここからさらに何を削り、何を足すのか。それがこのシリーズの核心になります。

Sport 350──「標準」を再定義した出発点

2015年に登場したSport 350は、エキシージ V6をベースに軽量化と空力を見直したモデルです。エンジンはトヨタ製2GR-FE型3.5L V6にスーパーチャージャーを組み合わせた345馬力仕様。車両重量は約1,125kgに抑えられています。

ポイントは、これが単なる「軽量オプション装着車」ではなかったことです。ロータスはSport 350を出すにあたって、シャシーのセッティングを専用に見直しています。ダンパー、スプリング、アンチロールバーを再チューニングし、空力パーツも刷新しました。見た目の変化は控えめですが、中身はかなり手が入っている。

パワーウェイトレシオは約3.26kg/ps。この数字だけでも十分に暴力的ですが、ロータスにとってはこれが「出発点」でした。ここから先のエスカレーションを知ると、350がむしろ穏やかに見えてくるのが恐ろしいところです。

Sport 380──削ることで速くなる証明

2016年に追加されたSport 380は、名前の通り出力が380馬力に引き上げられています。ただ、このモデルの本質はパワーアップよりも軽量化の徹底にあります。

車両重量は約1,066kg。Sport 350から約60kgも削っています。60kgというのは、大人ひとり分に近い重さです。これをどこから削ったのかというと、カーボンファイバー製のボディパネル、軽量シート、リチウムイオンバッテリー、そしてエアコンやオーディオの撤去といった積み重ねです。

ロータスの軽量化は、ひとつの大技で一気に落とすのではなく、グラム単位の削減を何十箇所も積み上げるスタイルです。創業者コーリン・チャップマンの「付け加えるものが何もなくなったときではなく、取り去るものが何もなくなったとき、それが完成だ」という有名な言葉がありますが、380はまさにその思想の実践そのものでした。

空力面では、大型リアウイングとフロントスプリッター、アンダーボディのディフューザーによって、高速域でのダウンフォースを大幅に増加させています。軽くしながら押さえつける。矛盾するように聞こえますが、これがロータス流の速さの作り方です。

Sport 430──公道を走れるレーシングカー

2017年に登場したSport 430は、エキシージ史上最強のロードカーです。出力は430馬力、トルクは440Nm。同じトヨタ製V6スーパーチャージャーユニットをさらにチューニングし、ECUのリマッピングとスーパーチャージャーのプーリー変更で絞り出しています。

車両重量は約1,054kg。つまりパワーウェイトレシオは約2.45kg/psです。この数字はフェラーリ488GTBの約2.58kg/psを上回ります。価格帯がまったく違う車と同じ土俵で戦える──というより、数字の上では勝ってしまう。それがロータスの軽量設計の恐ろしさです。

足回りにはナイトロン製の3ウェイ調整式ダンパーが奢られ、ブレーキはAP Racing製を採用。タイヤはミシュラン・パイロットスポーツ・カップ2が標準装着されています。これはもう、公道走行が許可されたレーシングカーと呼んでも大げさではありません。

ロータスのヘセル工場で0-60mph加速3.3秒、最高速度約285km/hという数値が公表されていますが、数字以上に印象的なのはそのドライビングフィールだったと多くのメディアが伝えています。ステアリングから伝わる路面情報の密度、ブレーキの初期制動の正確さ、コーナリング中の姿勢変化の読みやすさ。すべてが「ドライバーに情報を隠さない」方向に振られている。

なぜロータスはここまでやったのか

Sport 350、380、430という段階的なエスカレーションには、単なる商品展開以上の意味がありました。2010年代後半のロータスは、経営的に決して楽な状況ではなかったからです。

2017年に中国の吉利汽車がロータスの株式の過半数を取得するまで、ロータスはマレーシアのプロトン傘下で長く資金難に苦しんでいました。新型車を一から開発する体力がない。だからこそ、既存のエリーゼ/エキシージのプラットフォームを徹底的に磨き上げる戦略が選ばれたわけです。

逆に言えば、限られたリソースの中で「この車でできることの限界」を探り続けた結果がSportシリーズだった。新しいものを作れないなら、今あるものを極限まで仕上げる。それは制約から生まれた創意工夫であり、結果的にロータスらしさを最も純粋に体現するモデル群になりました。

また、この時期のスポーツカー市場では、ポルシェ911 GT3やマクラーレン570Sといった高性能モデルが話題の中心でした。それらと比べるとエキシージは価格も排気量もブランドの格も異なりますが、「速さの作り方」がまったく違うという点で独自のポジションを確保していた。大排気量やハイテクで速くするのではなく、軽さと純度で速くする。その思想に共感するドライバーにとって、代替不可能な存在だったのです。

軽さの系譜が残したもの

エキシージ Sportシリーズは、2021年にエキシージのファイナルエディションが発表されたことで、事実上の完結を迎えます。ロータスは次世代モデルとしてエミーラを発表し、エリーゼ/エキシージ/エヴォーラの3本柱はすべて生産終了となりました。

エミーラはより洗練された、より幅広い層に訴求するスポーツカーです。快適性も質感も大幅に向上しています。ただ、車両重量は1,400kg前後。エキシージ Sport 430の1,054kgとは別世界の数字です。

これは良い悪いの話ではなく、時代の要求が変わったということです。衝突安全基準、排ガス規制、NVH(騒音・振動・ハーシュネス)への要求。現代の自動車が満たすべき基準の中で、1トンを切るロードカーを作ること自体がもはや困難になりつつある。

だからこそ、エキシージ Sport 350/380/430は「あの時代にしか作れなかった車」としての価値を持っています。コーリン・チャップマンの思想を、現代の技術と規制のギリギリの隙間で最大限に表現した最後の世代。軽さという哲学が公道で許された、その最終到達点です。

エキシージの系譜

小鍛治康人(やすと)

 

エキシージ Sport 350/380/430【軽さの果てに到達した、公道を走るレーシングカー】

Lotus

小鍛治康人(やすと)

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hodzilla51

クルマの系譜を追ってたら、いつの間にかサイトになっていました

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