ランボルギーニはV12を捨てなかった。
それだけで、このクルマには語る価値があります。2023年に登場したRevuelto(レヴエルト)は、アヴェンタドールの後継であり、ランボルギーニ初のV12プラグインハイブリッド(PHEV)です。
型式はLB744。ブランドのフラッグシップとして、電動化の波にどう向き合うかという問いに対する、極めてランボルギーニらしい答えがここに詰まっています。
アヴェンタドールの終わりと、次の命題
Revueltoの話をするには、まずアヴェンタドールの立ち位置を振り返る必要があります。
2011年に登場したアヴェンタドール(LP700-4)は、ムルシエラゴの後継として約10年にわたりランボルギーニの頂点に君臨しました。6.5リッターの自然吸気V12をミッドに積み、最終的にはSVJやUltimaといった派生モデルを経て2022年に生産を終了しています。
ただ、アヴェンタドールが退場する頃には、スーパーカーの世界にも電動化の圧力が確実に押し寄せていました。フェラーリは296GTBでV6ハイブリッドに舵を切り、マクラーレンのアルトゥーラもV6+モーターという構成を選んでいます。ダウンサイジング+電動化が「正解」とされる空気の中で、ランボルギーニがどう出るかは、業界全体が注目していたテーマでした。
その答えが、V12を残したまま電動化するという選択です。要するに、排気量を削るのではなく、電気の力を足すことでV12の存続を正当化した。これがRevueltoの根幹にある設計思想です。
新設計V12と3モーターの意味
Revueltoに搭載されるのは、完全新設計の6.5リッター自然吸気V12です。型式はL545。アヴェンタドールのL539型をベースにしつつも、実質的にはゼロから作り直されたエンジンで、単体で825PSを発生します。レブリミットは9,500rpm。自然吸気V12としては、量産車で最も高い出力のひとつです。
ここに3基の電気モーターが加わります。フロントアクスルに2基、リアのトランスミッション付近に1基。システム合計で1,015PS。ランボルギーニ史上最高出力であり、初めて1,000PSの壁を超えたモデルでもあります。
注目すべきは、フロントの2モーターが左右独立でトルクベクタリングを行う点です。つまり、電動化をパワーの上乗せだけでなく、旋回性能の制御にも使っている。アヴェンタドールが最後まで抱えていた「巨大なV12ミッドシップの曲がりにくさ」に対する、構造的な回答でもあるわけです。
トランスミッションもISR(シングルクラッチ)から新開発の8速DCT(デュアルクラッチ)に刷新されました。アヴェンタドールのISRは独特のシフトショックが「らしさ」として愛された面もありますが、快適性や変速速度ではDCTに分があります。ここは明確に現代化された部分です。
カーボンモノコックの世代交代
シャシーも完全に新しくなっています。Revueltoのモノコックは「モノフセラージュ」と呼ばれる新世代カーボンファイバー構造で、アヴェンタドールのモノコックから大幅に進化しました。バッテリーパック(3.8kWh)をフロア中央のトンネル部に収めるため、構造そのものがハイブリッド前提で設計されています。
ランボルギーニは、カウンタックの時代からカーボンモノコックに積極的だったメーカーです。ディアブロでスチールチューブラーに戻った時期もありますが、ムルシエラゴ以降は再びカーボンを採用し、アヴェンタドールではRTM(レジン・トランスファー・モールディング)工法による一体成形モノコックを実現しました。Revueltoはその延長線上にありつつ、ハイブリッドのためにさらに複雑な構造を成立させています。
車両重量は約1,772kg(乾燥重量)。バッテリーとモーターを積んでこの数値は、決して軽くはないものの、同クラスのPHEVハイパーカーと比べれば十分に抑えられています。カーボン構造がなければ、もっと重くなっていたはずです。
電動走行という「もうひとつの顔」
Revueltoは、EV走行モードを持っています。バッテリー容量は3.8kWhと控えめですが、最大約10kmの電動走行が可能で、フロントモーターだけで静かに走ることができます。深夜に住宅街を出るときや、市街地での短距離移動を想定した機能です。
正直なところ、10kmという航続距離に実用的な意味を見出すのは難しいかもしれません。ただ、これはランボルギーニにとって象徴的な一歩です。V12の咆哮を誇りにしてきたブランドが、「黙って走る」モードを公式に用意したということ自体が、時代への適応を示しています。
走行モードは複数用意されており、「Città」(シティ)モードではEV優先、「Strada」「Sport」「Corsa」と段階を上げるにつれてV12の介入が増え、最終的にはフルパワーが解放されます。つまり、電動化を「制約」ではなく「演出の幅」として使い分ける設計です。
なぜV12を残せたのか
ここが最も重要な問いかもしれません。なぜランボルギーニはV12を捨てなかったのか。技術的にはV8やV6にダウンサイジングしたほうがパッケージングは楽になるし、重量も減らせます。実際、フェラーリの296GTBはV6ターボ+モーターで十分に速いクルマを作っています。
答えのひとつは、ブランドの定義にあります。ランボルギーニにとってV12は単なるエンジン形式ではなく、フラッグシップの存在証明そのものです。ミウラ以来、頂点のモデルには常にV12が載ってきた。これを降ろすことは、ブランドのアイデンティティを根本から揺るがしかねない判断です。
もうひとつは、アウディグループ(現在はフォルクスワーゲングループ傘下)の中でのポジショニングです。ランボルギーニは2024年時点で過去最高の販売台数を記録しており、ブランド価値の維持が経営上も極めて重要なテーマになっています。V12を残すことは、「ランボルギーニでなければ手に入らないもの」を守ることと同義です。
当時のCEOステファン・ヴィンケルマンは、Revueltoの発表に際して「V12は我々のDNAであり、電動化はそれを殺すためではなく、次の時代へ運ぶためにある」と語っています。この発言は、単なるマーケティング上のリップサービスではなく、実際にRevueltoの設計思想と完全に一致しています。
系譜の中のRevuelto
ランボルギーニのV12フラッグシップの系譜を並べると、ミウラ、カウンタック、ディアブロ、ムルシエラゴ、アヴェンタドール、そしてRevueltoとなります。
この系譜は約60年にわたって途切れることなく続いてきました。Revueltoはその最新章であると同時に、おそらく内燃機関V12を主役として積む最後の世代になる可能性が高いモデルです。
ランボルギーニは2028年までに全モデルをハイブリッド化し、その後の完全電動化も視野に入れていると公表しています。
つまりRevueltoは、V12自然吸気が新車で手に入る最後の時代に生まれたクルマです。そう考えると、このモデルが1,015PSという圧倒的な数字を掲げていることにも、ある種の「やれるうちに全部やる」という覚悟が透けて見えます。
Revueltoは、電動化の時代にV12を延命させるための妥協ではありません。むしろ、V12を中心に据えたまま、電動技術で走りの質を底上げするという、攻めの判断の結果です。
自然吸気V12の咆哮と、電動トルクベクタリングの精密さが同居するこのクルマは、ランボルギーニが「変わること」と「変わらないこと」の境界線をどこに引いたかを、明確に示しています。
