エキシージ – S1【エリーゼが本気で走りたがった姿】

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エキシージ – S1【エリーゼが本気で走りたがった姿】

エリーゼという車は、登場した瞬間から「これでレースがしたい」と思わせる存在でした。

接着アルミバスタブのシャシー、ローバーKシリーズの軽量エンジン、700kg台の車重。

公道用のスポーツカーとしてすでに極まっていたその素性に、ロータスが「では本当にサーキットへ持っていこう」と応えたのが、2000年に登場した初代エキシージです。

エキシージ S1は、単なるエリーゼの派生モデルではありません。ロータスがワンメイクレースとサーキット走行を前提に、空力と冷却と剛性を再設計した「目的特化型」のクルマです。

ベースがすでに軽くて速いからこそ、追加した要素ひとつひとつの意味が際立ちます。

エリーゼでは足りなかったもの

1996年に登場したエリーゼ S1は、ライトウェイトスポーツの再発明と言ってよいクルマでした。

接着アルミ押出材で構成されたバスタブシャシーは、従来のバックボーンフレームやスチールモノコックとはまるで違う発想で、軽さと剛性を両立しています。車重はわずか720kg前後。エンジンは1.8LのローバーKシリーズで、出力は120ps程度。数字だけ見れば控えめですが、パワーウェイトレシオで考えれば十分以上に速い。

ただ、エリーゼをサーキットに持ち込むと、いくつかの課題が見えてきます。まず空力です。オープントップのエリーゼは高速域でダウンフォースがほぼゼロに近く、速度が上がるほどフロントの接地感が薄れていきます。冷却も問題でした。公道では十分でも、連続周回では水温・油温が厳しくなる場面がある。

もうひとつ、ロータスにはワンメイクレースシリーズという事業的な文脈がありました。エリーゼのレースカテゴリーは人気を集めていましたが、よりハードコアな上位カテゴリーを成立させるには、専用のホモロゲーションモデルが必要です。エキシージは、その要請に応える形で企画されました。

追加されたのは「屋根」だけではない

エキシージ S1の外観上の最大の特徴は、エリーゼにはないハードトップルーフです。ただし、これは快適性のために付けたものではありません。空力的に車体上面の気流を整理するためのものです。ルーフがあることで、リアウイングへの気流が安定し、ダウンフォースの効率が大きく改善されます。

リアに装着された大型ウイングも、見た目のインパクトだけで付いているわけではありません。ロータスはこのウイングの設計にあたって、風洞テストを実施しています。高速コーナーでリアの安定性を確保しつつ、直線での抵抗増を最小限に抑えるバランスが狙われました。

フロントにもスプリッターが追加され、前後のダウンフォースバランスが取られています。つまりエキシージの空力パーツは、個々の部品の効果ではなく、ルーフ・ウイング・スプリッターの三点セットで空力バランスを成立させる設計です。エリーゼに後付けパーツを足したのではなく、空力を一体として再構成しています。

エンジンはそのまま、でも意味が違う

エキシージ S1のエンジンは、エリーゼと同じローバー製1.8L 直4のKシリーズです。VVCと呼ばれる可変バルブタイミング仕様で、出力は約177ps。エリーゼの標準仕様よりは高出力ですが、当時のスポーツカーとしては決して突出した数字ではありません。

しかし、ここがロータスらしいところです。エキシージの車重は約780kg程度。177psを780kgで割れば、パワーウェイトレシオは約4.4kg/ps。これは同時代の多くのスポーツカーを凌駕する数値です。ポルシェ・ボクスターSが約6.0kg/ps前後だった時代ですから、いかに軽さが効いているかがわかります。

ロータスはこのクルマで、エンジンパワーを上げる方向には大きく踏み込みませんでした。むしろ「この車重なら、このエンジンで十分すぎるほど速い」という判断です。パワーで解決しないという姿勢は、コーリン・チャップマンの時代から一貫しているロータスの設計哲学そのものです。

サーキットで何が変わったか

エキシージ S1がエリーゼと最も違うのは、連続して速く走れるという点です。1周のタイムだけなら、チューニングしたエリーゼでも近い数字は出せます。しかし、周回を重ねるなかで空力が安定し、冷却が持ち、ドライバーの疲労が少ないという総合的なサーキット適性は、エキシージならではのものでした。

ルーフがあることで車内の風の巻き込みが減り、ヘルメットをかぶった状態での視界や快適性も改善されています。サーキットで何十周も走ることを考えれば、これは地味ですが大きな差です。

足回りはエリーゼをベースにしつつ、スプリングレートやダンパーセッティングが見直されています。エアロによるダウンフォースが増えた分、サスペンションにかかる荷重特性が変わるため、それに合わせた再チューニングが必要になるわけです。こうした細部の整合性の取り方が、単なるエアロ追加キットとの決定的な違いです。

限定的であることの意味

エキシージ S1の生産台数は、正確な数は資料によってやや異なりますが、おおむね600台前後とされています。もともとロータスの生産規模自体が小さいとはいえ、この数は意図的に絞られたものです。ワンメイクレースのホモロゲーション取得が主目的のひとつであり、大量販売を狙った商品ではありませんでした。

その結果、S1は発売当初から希少性がありました。しかも、後継のエキシージ S2ではトヨタ製エンジンに換装され、車体も大きく変わっていきます。ローバーKシリーズを積んだ初代エキシージは、エリーゼ S1と同じ設計思想の上に成り立つ最後のハードコアモデルという位置づけになりました。

つまりエキシージ S1は、ロータスがローバーエンジン時代に到達したひとつの頂点です。接着アルミシャシー、軽量な英国製エンジン、最小限の空力デバイス。すべてが「足し算を最小限にして速くする」という思想で貫かれています。

軽さの哲学が形になった一台

エキシージ S1を振り返ると、このクルマがやったことは実はシンプルです。エリーゼという優れた素材に、サーキットで必要な空力と冷却と剛性を、最小限の重量増で加えた。それだけです。

ただ、「それだけ」を本当にやり切るのが難しい。屋根を付ければ重くなる。ウイングを付ければ抵抗が増える。冷却を強化すれば複雑になる。それらのトレードオフを、780kg前後という車重の中に収めたことが、このクルマの本質的な価値です。

後のエキシージ S2、S3と世代が進むにつれ、エンジンはトヨタ製に変わり、スーパーチャージャーが載り、出力は300psを超えていきます。速さの次元は確実に上がりましたが、「軽さだけで勝負する」という純度は、S1が最も高かったと言えるでしょう。

エキシージ S1は、ロータスが「エリーゼで本気で走りたい」と考えたときに出した、最も素直な答えです。足すものを最小限にして、引くものは何もない。

その潔さこそが、このクルマを特別な存在にしています。

エキシージの系譜

小鍛治康人(やすと)

 

エキシージ – S1【エリーゼが本気で走りたがった姿】

Lotus

小鍛治康人(やすと)

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hodzilla51

クルマの系譜を追ってたら、いつの間にかサイトになっていました

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