GRスープラ – A90【17年の沈黙を破った、トヨタが一人では作れなかった直6FR】

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GRスープラ – A90【17年の沈黙を破った、トヨタが一人では作れなかった直6FR】

スープラが帰ってきた——。

2019年にそのニュースが世界を駆け巡ったとき、歓迎と困惑が同時に起きました。復活そのものは待望されていた。

でも「BMWと共同開発」という事実が、少なくない数のファンを戸惑わせたのも事実です。

なぜトヨタは、自社の看板スポーツカーを他社と一緒に作ったのか。

そこには「作りたくても一人では作れなかった」という、2010年代のスポーツカー開発のリアルが詰まっています。

17年間の空白が意味するもの

先代A80スープラが生産終了したのは2002年。

排ガス規制への対応が困難になったことが直接の理由ですが、背景にはもっと大きな流れがありました。

2000年代のトヨタは、世界販売台数でGMを追い抜くほどの成長期にあり、経営資源はハイブリッド技術やグローバル展開に集中していたのです。

直列6気筒エンジンにFRプラットフォーム。この組み合わせを維持するには、専用の開発投資が必要です。しかしスポーツカーの販売台数では、その投資を回収できない。これは何もトヨタだけの問題ではなく、日産もホンダも、2000年代には同じ壁にぶつかっていました。

つまりA90が「17年もかかった」のではなく、17年間は「作れる条件が揃わなかった」というのが正確なところです。

BMWとの共同開発という合理的な決断

転機は2012年頃に訪れます。

トヨタとBMWが技術提携を発表し、その枠組みの中でスポーツカーの共同開発が動き始めました。

BMW側はZ4の後継モデルを必要としており、トヨタ側はスープラ復活の道を探っていた。プラットフォームとパワートレインを共有すれば、単独では成立しない企画が成立する——この判断が、A90誕生の出発点です。

共同開発といっても、丸ごと同じクルマを作ったわけではありません。

プラットフォーム(CLAR)とエンジンはBMW由来ですが、ボディ、サスペンションのチューニング、ステアリングフィールといった「走りの味付け」はトヨタ側——正確にはGAZOO Racingが独自に仕上げています。

開発責任者の多田哲哉氏は、「エンジニアリングのベースは共有しても、走りの哲学は別物にする」という方針を繰り返し語っていました。実際、Z4がオープンボディでコンフォート寄りの味付けなのに対し、スープラはクローズドボディで剛性を稼ぎ、より硬質でダイレクトな走りを目指しています。

この「同じ素材から違う料理を作る」というアプローチは、OEMとは明確に異なります。

ただ、エンジンにBMWの型式(B58)が刻まれている事実は変わらない。ここに対する評価は、いまだに分かれるところです。

ショートホイールベースという設計思想

A90スープラの設計で最も特徴的なのは、ホイールベース2,470mmという数字です。

これは86/BRZより短く、現行のスポーツカーとしてはかなりコンパクトな部類に入ります。全長4,380mmに対してこのホイールベースですから、前後のオーバーハングが相対的に長い、独特のプロポーションになっています。

多田氏はこの設計意図について「回頭性を最優先した」と明言しています。ホイールベースが短ければ、ノーズの向きが変わるレスポンスは速くなる。直進安定性とのトレードオフはありますが、「スポーツカーとして曲がる楽しさを優先した」という判断です。

前後重量配分は50:50。フロントミッドシップに近いエンジン搭載位置と、トランスアクスルではないもののリア寄りに配置されたトランスミッションによって、この数値を実現しています。カタログ上の50:50は珍しくありませんが、短いホイールベースとの組み合わせで得られる旋回特性は、数値以上に軽快です。

直6ターボと、もうひとつの選択肢

パワートレインは、日本市場では当初B58型3.0L直列6気筒ターボのみの設定でした。最高出力340ps、最大トルク500Nm。2020年の改良で387psに引き上げられ、さらに後に「A90 Final Edition」では400ps超の仕様も登場しています。

この直6ターボは、BMW由来とはいえ非常に完成度の高いユニットです。低回転から太いトルクが立ち上がり、高回転まで淀みなく回る。ZF製8速ATとの組み合わせも洗練されていて、スポーツ走行でのレスポンスと日常域での快適さを両立しています。

海外市場では2.0L直列4気筒ターボ(B48型)を搭載する廉価グレードも用意されました。日本でも2020年に「SZ」「SZ-R」として追加されています。197psのSZと258psのSZ-Rは、車両重量が1,410〜1,450kg程度と3.0Lモデルより100kg近く軽く、ノーズの軽さを活かした軽快なハンドリングが持ち味です。

「スープラなのに4気筒?」という声はありました。ただ、この4気筒モデルの存在が間口を広げたのも事実で、特にSZ-Rは走りの質感と価格のバランスから、通好みの選択肢として一定の支持を集めています。

「トヨタのスープラ」なのか問題

A90を語るうえで避けて通れないのが、「これは本当にトヨタのクルマなのか」というアイデンティティの問題です。エンジンはBMW、プラットフォームもBMW、生産はオーストリアのマグナ・シュタイヤー。トヨタの工場で作られてすらいない。

この点について多田氏は「大切なのは誰が部品を作ったかではなく、誰がクルマの走りを決めたか」と繰り返し述べています。実際、ニュルブルクリンクでの走り込みを重ね、サスペンションジオメトリやダンパー特性、電動パワステの味付けはトヨタ側が主導しました。

ただ、この議論が起きること自体が、A90の宿命でもあります。A80までのスープラは、2JZ-GTEという伝説的な自社製エンジンを持ち、それがアイデンティティの核でした。その核を他社に委ねたことの是非は、おそらく永遠に意見が分かれるでしょう。

一方で冷静に見れば、この共同開発がなければスープラという車名は復活しなかった可能性が高い。「純血」を守って消えるか、「混血」を受け入れて存在し続けるか。A90はその問いに対するトヨタの回答です。

モータースポーツとGRの文脈

A90スープラは、GAZOO Racingブランドの旗艦モデルとして位置づけられています。GRヤリス、GR86と並ぶラインナップの頂点であり、SUPER GTではGT500クラスの車両ベースとしても使われました。

もっとも、SUPER GTのGRスープラは市販車とはほぼ別物で、共通するのは基本的にシルエットだけです。ただ、「スープラ」という名前がサーキットに戻ってきたこと自体に意味がありました。A80時代のJGTCでの活躍を知る世代にとっては、レースシーンにスープラが存在すること自体がブランドの説得力になります。

市販車の世界でも、GRブランドの中でA90が果たした役割は大きい。GRヤリスが「ホモロゲーション的な尖り」を担い、GR86が「手の届くFRスポーツ」を担う中で、A90は「トヨタが本気で作るハイパフォーマンスFR」という看板を掲げました。この三層構造があることで、GRブランド全体の説得力が成立しています。

A90が残したもの、残せなかったもの

GRスープラA90は、2019年のデビューから2025年に至るまで、継続的な改良を受けながら販売されています。マニュアルトランスミッション仕様の追加(2022年)は、ファンの要望に応えた象徴的なアップデートでした。

iMT(インテリジェント・マニュアル・トランスミッション)による回転合わせ機能付きの6速MTは、AT全盛の時代にあって貴重な選択肢です。

このクルマが証明したのは、「スポーツカーを作り続けるには、従来の枠組みにこだわらない柔軟さが必要だ」ということでしょう。共同開発という手法は、A90以降、他メーカーでも選択肢として現実味を帯びています。

一方で、A90が「トヨタの直6」という文化を継承したかといえば、それは少し違う。

2JZの血統はここで途切れています。

エンジン開発を自社で完結させる時代が終わりつつあるのか、それともA90が特殊な例なのか。その答えはまだ出ていません。

それでも、17年の空白を経て「スープラ」という名前が現役であること。直列6気筒FRという形式が、2020年代にも新車として買えること。それ自体が、A90の最大の功績かもしれません。

純粋主義者を完全に納得させることはできなかったとしても、存在しないスープラより、存在するスープラのほうがずっと価値がある

A90は、その現実的な正解を体現したクルマです。

スープラの系譜

小鍛治康人(やすと)

 

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Toyota

小鍛治康人(やすと)

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クルマの系譜を追ってたら、いつの間にかサイトになっていました

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