パジェロが帰ってきます。
2019年に日本向けの生産を終え、2021年には海外向けも終了。それから5年が経った2026年、三菱自動車は新型パジェロを同年秋に世界初公開すると発表しました。
歴代パジェロは世界170以上の国と地域で累計325万台以上を販売し、ダカールラリーでは通算12勝。復活だけでも十分に大きな出来事です。
ただ、新型で本当に面白いのは、名車が帰ってくることだけではありません。
発表済みの構造と技術を見ると、40年以上の積み重ねを現代の技術でもう一度組み直そうとしていることが分かります。
その象徴が、ラダーフレームへの回帰です。
パジェロは、一度ラダーフレームを捨てている

パジェロ – V60/V70【街の主役を降りても、砂漠では王者だった】
1999年登場の3代目パジェロは、別体式ラダーフレームをやめ、モノコックと4輪独立懸架へ転換。国内で賛否を招いた大改革が、世界とダカールで証明されるまでを追います。
初代と2代目のパジェロは、頑丈なラダーフレームの上にボディを載せる、本格クロスカントリー4WDらしい構造を採用していました。
ところが1999年に登場した3代目で、三菱は従来のラダーフレームをやめ、フレームをボディへ一体化した「ビルトインフレーム・モノコック」へ移行します。
狙いは軽量化や低重心化だけではありません。オフロード車は舗装路で我慢が必要だという常識を変えようとしていました。
悪路には強いが、街中や高速道路では疲れるクルマではなく、どこを走っても快適で、それでも本格的な悪路へ入っていけるクルマ。そのために、パジェロの象徴だった骨格を自ら捨てたのです。
2006年の4代目も、ビルトインフレーム・モノコックと4輪独立懸架を継承しました。歴代パジェロは3代目以降、単純な悪路性能の競争ではなく、本格4WDをどこまで乗用車として成立させられるかを追い続けました。
27年後、同じ目的のために戻る

2026年の新型パジェロでは、再びラダーフレームが採用されます。
ベースは、現行トライトンの強靭なラダーフレーム。ただし、ピックアップトラックの荷台をSUVボディへ置き換えるだけではありません。フレームには改良を施し、キャビンと前後サスペンションもパジェロ専用に開発されます。
狙っているのは、本格的な悪路走破性を確保しながら、長距離移動でも疲れにくい上質な乗り心地です。
ラダーフレームへ戻ったからといって、初代や2代目へ単純に戻るわけではない。初期パジェロの頑丈な骨格を取り戻しながら、3代目と4代目が追求した「舗装路でも快適な本格4WD」という思想を残そうとしています。
構造は過去へ戻っても、目指すクルマは過去へ戻らない。
新型パジェロの系譜上の面白さは、ここにあります。
土台は、約20年ぶりに作り直した新しい骨格

ランドクルーザー – GRJ300/VJA300【14年の沈黙を破った、重さとの決別宣言】
14年ぶりのフルモデルチェンジで登場した300系ランドクルーザー。TNGA-Fプラットフォームによる200kg軽量化とツインターボ化、そしてランクル史上初のハイブリッド投入。なぜトヨタはここまで大胆に変えたのか、その背景を読み解きます。
新型が使うトライトン由来のフレームも、古い設計をそのまま流用したものではありません。
現行トライトンの開発時、三菱はピックアップトラック用ラダーフレームを約20年ぶりにゼロから刷新しました。従来型の改良だけでは、将来求められる衝突安全性や剛性を確保できないと判断したためです。高強度・軽量鋼板を増やし、強さと重量の両立も図っています。
つまり新型パジェロは昔ながらの構造へ回帰しながら、現在の安全基準と使用環境を前提に作られた骨格を使います。
パジェロがいなかった5年間にも、三菱は次のパジェロに必要な土台を、トライトンという別の名前で作り続けていたのです。
スーパーセレクトの思想に、S-AWCを重ねる

ランサーエボリューションX - CZ4A 【エボというアイデンティティの最終形態】
エボXは、これまでのランエボとは少し意味が違います。 エボVIIが新世代シャシーへの転換、エボVIIとIXがその熟成だったとすれば、エボXは土台そのものを一度壊して作り直したモデルです。 三菱公式も、2007年10月発売 […
パジェロの系譜では、4WDシステムも進化を続けてきました。
1991年の2代目が採用したスーパーセレクト4WDは、2WD、センターデフ式フルタイム4WD、直結4WDを使い分け、舗装路での扱いやすさと悪路での強さを一つのシステムへ収めました。
それ以降のパジェロにとって4WDは、単に四輪へ力を送る仕組みではありません。路面に応じて駆動力をどう使えば、誰もが意図した通り走れるのか。そこまで含めた技術になりました。
新型には、その歴代の思想へ現在の統合制御を重ねるS-AWCが採用されます。
S-AWCは駆動力と制動力を統合的に制御し、操縦性、安定性、走破性を高める技術です。ラダーフレームへ電子制御を組み合わせ、扱いやすい本格4WDを目指します。
3連メーターは、飾りではない

新型には、歴代パジェロのダッシュボード中央に並んだ3連メーターをオマージュした「マルチメーター」も採用されます。
表示するのは、高度、方位、外気温、車体の前後左右の傾き、左右のトルク配分。昔の形だけを懐かしく再現したのではなく、現在の車両制御と結びつく情報へ作り直しています。
普段の街中では、ほとんど見ない情報かもしれません。
けれど、普段は使わない情報まで用意すること自体、行き先を限定しないパジェロらしさでした。急勾配や岩場では、車体の姿勢と駆動力の行き先を自分で確かめられます。
3連メーターは意匠としてではなく、冒険のための機能として戻ってきます。
砂漠から東南アジアへ移った鍛錬の場

ギャラン VR-4 - E38A/E39A【後のランエボを作った4WDターボ】
ギャランVR-4は、1987年12月に登場した高性能4WDセダンです。 三菱公式の会社史では、このVR-4は4G63 DOHCインタークーラーターボを搭載し、205ps/6000rpmを発生すると説明されています。 しか […
パジェロは1983年にダカールラリーへ初参戦し、2001年から2007年の7連覇を含む通算12回の総合優勝を記録しました。
現在、パジェロ自身はラリーを走っていません。それでも三菱は、モータースポーツで市販車を鍛える方法をやめませんでした。
トライトンを投入するアジアクロスカントリーラリーでは、2022年と2025年に総合優勝。そこで得た技術的な情報をトライトンだけでなく、新型パジェロにも生かしていると三菱は明言しています。
競技の舞台はアフリカの砂漠から、急勾配、密林、泥濘が続く東南アジアへ変わりました。車名もパジェロからトライトンへ変わりました。
それでも、壊れた原因を突き止め、直し、もう一度走らせ、その知見を市販車へ戻す。パジェロがいなかった期間にも、その作り方は途切れていません。
復活を可能にした、三菱の現在地

今回の復活には、三菱自動車の経営戦略も関係しています。
三菱は2026年の新中長期ビジョンで、開発資源をASEAN商品群とオフロード商品群へ集中させる方針を示しました。新型パジェロを「三菱自動車らしさを体現する商品」と位置づけ、将来はシリーズ展開も図ります。
現在の三菱にはトライトンの新しい骨格とS-AWCがあり、本格オフロード車を必要とする市場も残っています。
懐かしい名前だから復活させるのではない。三菱がもう一度オフロードを自分たちの強みとして押し出すとき、その頂点に置ける名前がパジェロだったのでしょう。
過去に戻るための復活ではない

パジェロ – L040【「我慢して乗る」を終わらせた】
1982年に登場した初代パジェロは、三菱ジープを作り続けてきた会社が「悪路も走れる乗用車」を作り直した一台でした。フロント独立懸架という判断、屋根と長さを選ばせる商品設計、パリ・ダカールでの証明。そして日本のスキー場を埋め尽くすまでの10年
新型パジェロは、一つの世代を再現するクルマではありません。
ラダーフレームは初代と2代目から。舗装路の快適性を諦めない思想は3代目と4代目から。四輪制御には現在のS-AWCが入り、3連メーターはデジタルのマルチメーターへ置き換わります。モータースポーツで鍛える開発方法も、トライトンを経由してつながりました。
パワートレインや詳細な寸法、グレード構成など、まだ発表されていない部分は残っています。
それでも、新型が目指すものはすでに見えています。
パジェロが歴代モデルで追い続けたのは、単純な悪路走破性ではありません。本格4WDとして厳しい道を走れることと、乗用車として長距離を快適に移動できることを、一台の中でどう両立するか。その答えを探し続けたクルマでした。
3代目では、そのためにラダーフレームを捨てました。
そして新型では、同じ目的を実現するために、もう一度ラダーフレームを使います。
骨格は27年前へ戻っても、パジェロが目指しているものは、一度も後ろを向いていません。
パジェロの系譜


パジェロ – 2026年新型【ラダーフレームへ戻った、三菱4WDの本流】
Mitsubishi

この記事を書いた人
hodzilla51
クルマの系譜を追っていたら、いつの間にかサイトになっていました




