エボXは、これまでのランエボとは少し意味が違います。
エボVIIが新世代シャシーへの転換、エボVIIとIXがその熟成だったとすれば、エボXは土台そのものを一度壊して作り直したモデルです。
三菱公式も、2007年10月発売のランサーエボリューションXについて「プラットフォーム、エンジン、デザインなど全てを一新」と説明しています。
ここでいちばん大きいのは、やはりいつもの4G63を降ろしたことでしょう。
初代から積み続けてきたランエボの象徴を捨て、新開発の2.0L MIVECターボへ切り替えた。しかもただ新しくしただけではありません。
アルミブロック化、後方排気レイアウト、重量バランスの見直しまで含めて、エボXは「昔ながらの武闘派ランエボ」を現代的に再構成した一台でした。
もう荒いラリーセダンのままではいかない
エボXの開発で見えてくるのは、三菱がランエボの価値を少し変えようとしていたことです。
webCGが伝えた開発関係者の証言では、エボXでは従来のように「筑波でどれだけ速いか」を指標にせず、「大人が十分に楽しめる乗り味」を目指したと言います。
つまりエボ10は、ただサーキットで尖っていればいいクルマではなく、高性能4WDセダンとしての質感や安定感まで求めていました。
そのために車体は大きくなり、キャラクターも変わります。
従来のランエボよりズッシリ系になったと言われることも多いですが、それは単なる肥大化ではありません。高剛性ボディ、高剛性サスペンション、新世代4WD制御を使って、速さをより大きな器で成立させようとした結果でした。
三菱公式も、高剛性ボディと高剛性サスペンションによって高い走行性能を実現したと位置づけています。
「暴力的な速さ」ではなく「誰でも引き出せる速さ」
エボX最大の武器は、S-AWCだった。
従来のAWCをさらに進め、ACD、AYC、ASC、ABSを統合制御することで、旋回性と安定性をまとめて引き上げました。
Responseの記事では、AYCにブレーキ制御を加えたことで、進入で車両の向きを変える場面でエボIX以上にドライバーの意思へ忠実に動くと開発責任者の藤井啓史氏が説明しています。
社内テストコースでは、S-AWC装着車の方が1.5秒速かったというコメントまで出ていたそうです。
昔のランエボのような「気合でねじ伏せる四駆」ではなく、制御の力でより深く、より自然に曲げていく。
速い人だけが速いクルマではなく、乗り手のレベルを問わず高いところまで引き上げる。エボXはその方向へ、かなり大きく舵を切ったのです。
時代に合わせて作り直した新しい心臓
エボXの新しい2.0Lターボは、ギャランフォルティス系の4気筒をベースにしながら、実際には共通部品がウォーターポンプ程度しかない「ほぼ専用エンジン」だったと、エンジン開発担当の加藤佳彦氏は語っています。
アルミダイカストブロックだけで約12kg軽くし、後方排気レイアウトで吸排気と前後重量配分も最適化。さらにターボのレスポンスも高めていました。
この新エンジンの凄さは、数字の派手さよりフィーリングにあります。
Responseでも、4G63より吹け上がりが軽く、3000〜4000rpm付近のトルク感とレスポンスが明確に向上していると伝えられています。
車重は増えたのに、重さを感じさせにくい。エボXはここで、「昔のターボ四駆の迫力」より「現代的な速さの気持ちよさ」を取ってき他のです。
「2ペダルのランエボ」を本気で成立させた
エボXを語るなら、ツインクラッチSSTも外せません。
三菱公式はこれを「新開発の高効率トランスミッション」と位置づけ、6速自動マニュアルに2つのクラッチを組み合わせることで、素早い変速と高効率な動力伝達を両立したとしています。
さらに開発担当の一樂浩氏は、基本メカニズムはDSG系と共通しつつも、ランエボの高トルクに対応するためクラッチ配列などに三菱独自の変更を加えたと説明しています。
一方でMTも残されました。
しかも先代の6速ではなく、新設計の5速MTにしました。藤井氏は、エボXではSSTを一般ユーザー向けの主役とし、MTはラリーなど競技ベース用途のユーザーへ向けた設定だと語っています。
つまりエボXは、走りの裾野を広げつつ、本気で戦うための武器もちゃんと残した。そこが単なるハイテク化では終わりません。
最後のランエボは、異質だが現代的
エボXは、昔ながらのランエボ像だけで見ると異質に映るでしょう。
大きいし、重いし、制御も濃い。4G63もない。だから「最後にして別物」と言われるのもわかります。
それでも実際には、ランエボがずっとやってきた「4WDで速く走る」を、その時代の技術、規制、あらゆる事情のもとで全力で更新したのがエボXでした。
荒々しい競技ベースの延長ではなく、誰もが高い次元の走りを楽しめる高性能4WDセダンへ。
そこに向けて、プラットフォームも、エンジンも、制御も、変速機も全部作り直した。エボを少しでも生き残らせるために。
だからエボXは、4G63時代の終わりであると同時に、ランエボという名前が最も広い意味で完成した一台だったのです。
