プレリュードという名前が、まさか2025年に新車のカタログに戻ってくるとは。
5代目が生産を終えた2001年から数えて、じつに24年。その間、ホンダのラインナップにスペシャリティクーペは存在しませんでした。
復活した6代目プレリュード(BF1)は、かつてのデートカーの面影を残しつつも、ハイブリッド専用車という、まったく新しい文法で書かれた一台です。
「復活」ではなく、結果的にプレリュードになった
この車の出自を語るうえで、いちばん面白いのは「最初からプレリュードを作ろうとしていたわけではない」という事実です。
ホンダCEOの三部敏宏氏は、開発の経緯について「このプロジェクトは、別のスポーティなモデルを市場に投入するために設計されたもの」で、「開発にちなんで名付けられた」と明かしています。
つまり出発点は、電動車時代に「こんなスポーツカーがあったらいいな」というユーザーの潜在需要に応えること。開発責任者の山上智行氏も、新しいハイブリッドスポーツの実現が最初の目的だったと語っています。
開発が進む中で、常に時代の先端技術を搭載してきたプレリュードの系譜と親和性が見えてきた。だから「前奏曲」の名を冠した、という流れです。
ここが重要なポイントでしょう。ノスタルジーで車名を引っ張り出したのではなく、中身が先にあって、名前が後からついてきた。これは単なる復刻モデルとは根本的に違う成り立ちです。
グライダーという着想
6代目プレリュードのグランドコンセプトは「UNLIMITED GLIDE」。大空を滑空するグライダーをイメージしたものです。開発チームは実際にグライダーを体験し、「非日常のときめき」を追求したといいます。
このコンセプトは、デザインにもはっきりと反映されています。全長4,520mm、全幅1,880mm、全高1,355mmというボディサイズは、ワイド&ローでありながら全長は4.5mクラスに収まり、街中での取り回しも意識されたバランスです。
低くシャープなフロントノーズ、抑揚のあるボディライン。歴代プレリュードが守ってきた「低く、伸びやかに」というスタイリングの文法は、しっかり受け継がれています。
ただ、かつてのリトラクタブルヘッドライトはもちろんありません。代わりに、外側上方に伸びるストライプを成形したマルチファンクションライトが、新しい時代の顔つきを作っています。2025年に「2025〜2026 日本自動車殿堂カーデザインオブザイヤー」を受賞したことからも、このデザインの完成度がうかがえます。
S+ Shiftという「矛盾」への回答
パワートレインはホンダの2モーターハイブリッドシステム「e:HEV」。2.0リッター直列4気筒エンジンと2基の高出力モーターを組み合わせ、システム全体で200PS、315Nmを発生します。駆動方式はFFで、プレリュードの伝統を踏襲しています。
ここで注目すべきは、ホンダ車として初搭載となった制御技術「Honda S+ Shift」です。モーター駆動でありながら、仮想の8段変速で加減速時にエンジン回転数を緻密にコントロールし、有段変速機があるかのようなダイレクトな駆動レスポンスを実現する。要するに、CVT的な滑らかさではなく、「ギアが切り替わる感触」をあえて演出する技術です。
これは一見すると矛盾に思えます。効率を追求するハイブリッドに、わざわざ非効率な有段変速の「感覚」を載せるわけですから。しかしホンダが解こうとした問いは明確です。電動化時代に「操る喜び」をどう残すか。S+ Shiftはパフォーマンスを上げるための装置ではなく、ドライバーの感覚に応えるための装置なのです。
ただし、0-100km/h加速が7秒台という数字に対して「600万円台の車としては遅い」という声もあります。ここは評価が分かれるところで、絶対的な速さを求める層にとっては物足りないかもしれません。しかしこの車が目指しているのは、直線番長ではなく、ワインディングや日常の運転で「気持ちいい」と感じられる走りです。
タイプRの足回りを持つ「非タイプR」
シャシーまわりの構成は、かなり本気です。フロントサスペンションには、シビック TYPE Rと同じデュアルアクシス・ストラットを採用。トルクステアを抑え、アクセル全開時でも自然なステアリングフィールを確保します。
さらにアダプティブダンパーシステムで路面状況や走行モードに応じて減衰力を制御し、ブレーキにはBrembo製のフロント大径ベンチレーテッド2ピースディスク(φ350mm)を装備。7パターンの走行モードが選べる仕様も含め、足回りの充実ぶりはスポーツカーそのものです。
ただ、これはタイプRのような限界性能を追うためではありません。快適性とスポーツ性を高い次元で両立させるための選択です。開発責任者の山上氏が「Hondaらしい」ではなく「Hondaにしかできない」クルマを目指したと語っている通り、ハイブリッドスポーツとしてシビック TYPE Rとは明確に異なる方向性が設定されています。
617万円という価格が問いかけるもの
新型プレリュードの価格は617万9,800円(税込)。月販計画は300台。この数字は、かつてデートカーとして大量に売れた時代のプレリュードとは、完全に異なるポジショニングを示しています。
量販スポーツではなく、限定的かつ象徴的な立ち位置。初期ロット2,000台の抽選販売が行われたことからも、ホンダがこの車を「広く薄く売る」のではなく「深く届ける」つもりであることがわかります。
価格に対する批判は少なくありません。600万円台でハイブリッド、MTなし、0-100km/hが7秒台。スペックシートだけ見れば割高に映るのは事実です。しかし、Brembo製ブレーキ、アダプティブダンパー、Honda SENSING標準装備、BOSEサウンドシステムといった装備内容を積み上げると、単純に高いとも言い切れない。このあたりは、実際に乗ってみないと評価しにくい領域でしょう。
「前奏曲」が示す次の楽章
歴代プレリュードは、つねにホンダの先端技術を世に問う実験台でした。初代は日本初の電動サンルーフ、2代目は日本初の4輪ABS、3代目は世界初の機械式4WS。技術のショーケースであると同時に、ホンダのブランドイメージを牽引する存在でもありました。
6代目がその系譜に載せたのは、S+ Shiftという「ハイブリッドでも走りの感動を諦めない」技術です。派手なスペックではないけれど、電動化時代における「操る喜び」の定義を、ホンダなりに提示しようとしている。
プレリュードとは「前奏曲」。この車が前奏であるならば、本編はこれから始まるはずです。ホンダが電動化の時代にどんなスポーツカーを描いていくのか。BF1は、その最初の一音なのだと思います。
