アバルト 124スパイダー(NF2EK)マツダの車体に、イタリアの心臓

小鍛治康人(やすと)約8分
画像:El monty/CC BY-SA 4.0(Wikimedia Commons)

骨格はマツダ・ロードスター(ND)、生産も広島。しかしエンジンは1.4Lのマルチエア ターボで、味付けはアバルトが担当している。124スパイダーは、その成り立ちがそのまま中古選びの論点になる車です。

日本車の信頼性を期待して買うと、外します。 車体はマツダでも、走りの心臓と電子制御はイタリア側だからです。

構成を整理しておきます。エンジンは1.4Lのマルチエア ターボで、変速機は6速MTと6速AT。骨格と生産はマツダのNDロードスターと共通で、広島で作られています。サスペンションの設定や排気音、外装は、アバルトが独自に仕立てました。

マルチエアは、オイル管理がすべて

アバルト 124スパイダー – NF2EK【30年越しにサソリが選んだのは「マツダ」だった】

マツダ ロードスターのプラットフォームにフィアットのエンジンとアバルトの味付けを載せた124スパイダー。なぜこの奇妙な共作が成立し、何を生んだのかを読み解きます。

124スパイダーが積む1.4Lターボは、マルチエアと呼ばれる油圧式の可変バルブ機構を持っています。この機構はエンジンオイルの状態に非常に敏感で、劣化したオイルでは油圧が正しく働かず、不具合につながります。

つまりこの車は、前オーナーがオイル交換をどれだけ真面目にやってきたかが、そのまま状態に出ます。マルチエアユニットに起因する警告灯や不調は、修理費が10万〜20万円規模と言われます。

中古で見るときは、記録簿のオイル交換履歴を最優先で確認してください。距離が短くても、交換間隔が空いている個体は避けたほうが無難です。

オイルの銘柄も確認する価値があります。マルチエアは油圧で吸気バルブを制御するため、指定粘度から外れたオイルを使い続けた個体は、機構への負担が読めません。「何を入れていたか」まで答えられる個体は、それだけで信頼できます。

走行5万kmあたりから出てくるもの

フィアット・アバルト 124 Rally – CSA【ラリーの現場が磨いた市販車の形】

フィアット 124をベースにアバルトが仕立てたラリーマシンの市販版、124 Rally CSA。ホモロゲーション取得のために生まれた一台が、なぜこれほど魅力的な存在になったのかを読み解きます。

これらはいずれも、放置すると次の故障を呼ぶ種類のものです。特にターボ周辺のオイル滲みは、量が増えると白煙や過給不良につながります。購入時に滲みが見つかったら、価格交渉の材料にしたうえで早めに手を入れてください。

ターボまわりのオイル滲み。 5万kmを超えたあたりから定番として挙がる症状で、修理費は10万〜25万円という数字が語られます。エンジン下部と過給機周辺の滲みを、下から覗いて確認してください。

イグニッションコイル。 失火と警告灯につながります。修理費は3万〜8万円程度で、致命的ではありませんが、アイドリングの安定と加速のもたつきをチェックしておきましょう。

エアコンのコンプレッサーとオルタネーター。 どちらも定番の弱点として挙がり、オルタネーターは10万円を超える例もあります。試乗では最大冷房と、アイドリング時の電圧の安定を見てください。

6AT車はリコールの確認を

アバルト 124スパイダー
画像:El monty/CC BY-SA 4.0(Wikimedia Commons)

平成28年9月2日から平成31年3月20日までに生産された6AT車には、ミッション制御コンピューターの不具合に関するリコールが出ています。中古で6AT車を検討するなら、対策済みかどうかを車台番号で確認してください。

MT車を選ぶなら、この点は関係ありません。124スパイダーはロードスターと同じ6速MTが選べ、味付けの違いを楽しめる車でもあります。

ND系のロードスターと乗り比べられるなら、そうしてください。同じ骨格でも、ターボの低速トルクとギア比、そして排気音の演出で、まったく別の乗り物になっています。どちらが良いかではなく、どちらが好きかの問題です。

いちばん重要なのは「どこで直すか」

ロードスター - ND5RC/NDERC 【もう一度、原点に戻ってきた四代目】

NDはNCで一度現代化したロードスターを、少しだけ原点側へ引き戻すためのモデルでした。 マツダ自身も四代目の開発テーマを「Innovate in order to preserve」と説明しており、環境性能や安全性能の要 […

具体的には、購入前に「アバルトを見てもらえる工場」を1軒でも見つけておくこと。正規ディーラーが遠い場合、フィアット系を扱う整備工場でも対応できることがあります。車を決める前に、預け先を決めておくのがこの車の鉄則です。

この車の最大の注意点は、故障そのものではありません。修理を頼める場所です。

車体はマツダ製でも、マルチエアユニットやアバルト固有の電子制御に関する診断と修理は、マツダのディーラーでは基本的に対応できません。つまり、アバルト(フィアット系)を見られる整備工場を確保できるかどうかが、この車を持てるかどうかを決めます。

購入前に、住んでいる地域でその工場があるかを調べてください。無ければ、遠方まで運ぶ前提になります。これは維持費にも時間にも直結します。

もうひとつ、車体側の整備(ブレーキ、サスペンション、ボディまわり)はNDロードスターと共通の部分が多く、マツダ系の工場でも対応できる場合があります。エンジンと電子制御はアバルト系、車体はマツダ系という切り分けを理解しておくと、相談先を間違えません。

現車確認で見るべきポイント

124
画像:El monty/CC BY-SA 4.0(Wikimedia Commons)
  • 記録簿のオイル交換履歴:この車では最重要。間隔が空いた個体は避ける
  • ターボ周辺の滲み:エンジン下部、過給機まわり
  • 警告灯の履歴:マルチエア関連、失火関連
  • 6AT車のリコール実施記録:平成28年9月〜平成31年3月生産が対象
  • エアコンと充電系:最大冷房での作動、アイドリング時の電圧
  • 幌の状態:オープンカーとして、生地の傷みと雨漏り
  • 整備工場のあて:買う前に決めておく

この車に手を出してよい人、やめた方がよい人

フィアット 124 スポーツスパイダー – AS【ピニンファリーナが描き、アバルトが鍛えた一台】

フィアット124をベースにピニンファリーナがデザインし、アバルトがエンジンを仕上げた124スポーツスパイダー。量産セダンから生まれた本格オープンスポーツの背景と意味を読み解きます。

維持費としては、1.4Lで自動車税は3万4500円の区分。ハイオク指定で実燃費は街乗り11〜13km/L程度。タイヤは17インチで負担は小さめです。維持費そのものは高くありません。問題は、故障したときの診断と修理の難易度です。

試乗では、低回転からの過給の出方と、排気音の演出を確かめてください。124スパイダーはロードスターと同じ骨格でも、味付けがまったく違います。「思っていたのと違う」を試乗前に潰しておくのが、この車では特に重要です。

向いている人は、ロードスターとは違うものが欲しい人です。同じ骨格でも、ターボの低速トルクと味付け、そして124スパイダーという名前が持つ来歴は別物です。アバルトを見られる工場と付き合えるなら、これを選ぶ意味は十分にあります。

やめた方がよい人は、日本車の手軽さを期待する人です。「マツダ製だから安心」と考えて買うと、マルチエアの繊細さと修理先の問題でつまずきます。手軽に軽量オープンを楽しみたいなら、素直にNDロードスターを選んだほうが幸せです。

結局、124スパイダーの中古は買いなのか

アバルト 595 – 31214T【フィアットの小さな箱に毒を盛った、現代アバルトの原点】

フィアット500をベースに、アバルトが仕立てた現代版ポケットロケット。31214T型595は、ブランド復活の象徴であり、小さなボディに不釣り合いなほどの刺激を詰め込んだ一台です。

オイル交換の記録が揃っていて、見てもらえる工場のあてがあるなら買いです。 その2つが欠けると、この車は途端に難しくなります。

イタリアの名前を、日本の車体で復活させる。その折衷の面白さに納得できる人のための一台です。

この車種の系譜を見る

アバルト 124スパイダー – NF2EK【30年越しにサソリが選んだのは「マツダ」だった】の歴代モデルの変遷と進化の歴史を詳しく解説しています。

系譜記事を読む

この記事を共有

小鍛治康人(やすと)
この記事を書いた人小鍛治康人(やすと)

クルマの系譜を追っていたら、いつの間にかサイトになっていました

ほかの中古車情報・注意点