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アバルト 124スパイダー – NF2EK【30年越しにサソリが選んだのは「マツダ」だった】

  • hodzilla51
  • 9分で系譜を理解
アバルト 124スパイダー – NF2EK【30年越しにサソリが選んだのは「マツダ」だった】

マツダが作ったシャシーに、フィアットがエンジンを載せて、アバルトが味付けをする。

文字にするとまるで冗談みたいな成り立ちですが、これは実在した市販車の話です。

しかもこの車、ただの寄せ集めではなく、きちんと「アバルトらしさ」を持っていた。

そこが面白いところです。

30年越しの124スパイダー

先代124スパイダーの記事を読んだ方はもう知っていると思いますが、アバルトは「素性の良い小さいクルマをチューニングする」ということをやってきました。

それが大昔はフィアット500であり、過去の124スパイダーだったわけです。

そして今、30年越しの復活で選ばれたクルマが「NDロードスター」となります。

このクルマが選ばれたということは、NDロードスターが「次期124スパイダーの名を受け継がせるのに足る土台だった」とアバルトが認めたということを示しています。

昔のフィアット/アバルトが担っていた「小さくて軽いFRオープンを遊び倒す文化」を、現代ではロードスターが一番まともに保存していたのです。

なぜマツダとフィアットが手を組んだのか

さて、アバルト 124スパイダー(NF2EK)の話をするには、まずその前提となるフィアットとマツダの提携関係から始める必要があります。

2012年、フィアット・クライスラー・オートモービルズ(FCA)とマツダは、次世代ロードスター(ND型)のプラットフォームを共用する合意を発表しました。

背景にあったのは、双方の事情です。マツダ側は、ロードスターの開発コストを分散したかった。世界的に見ても2シーターオープンスポーツの市場は縮小傾向にあり、単独で採算を取り続けるのは年々厳しくなっていました。

一方のFCA側には、フィアット 124スパイダーという伝説的な車名を復活させたいという長年の構想がありました。ただし、ゼロからライトウェイトスポーツのプラットフォームを起こす体力も時間もない。そこに、世界で最も成熟した2シーターオープンの設計を持つマツダがいた。利害が一致したわけです。

ロードスターとの違いは「似て非なる」どころではない

よく「124スパイダーはロードスターのバッジ替え」と言われます。

たしかにプラットフォーム、基本骨格、ソフトトップの機構、さらにはインテリアの多くのパーツまでND型ロードスターと共有しています。生産もマツダの広島・防府工場で行われていました。

しかし、エンジンがまったく違います。ロードスターのSKYACTIV-G 1.5L/2.0L自然吸気に対して、124スパイダーにはフィアット製の1.4Lマルチエア ターボが搭載されました。排気量は小さいのにターボで過給する、いかにもヨーロッパ的な発想のユニットです。

この選択が、走りの性格を根本から変えています。ロードスターが自然吸気の気持ちよさ——つまり回転数に比例してリニアに伸びるフィーリング——を大切にしているのに対して、124スパイダーは中回転域からのトルクの押し出しで走るキャラクターになりました。

外装デザインもまったく別物です。ロードスターの丸みを帯びた造形に対し、124スパイダーはノーズが長く、ボンネットにパワーバルジを持ち、リアのデザインも独自。ホイールベースは同じですが、全長は124スパイダーのほうが約140mm長い。顔つきも佇まいも、並べれば別の車です。

アバルト版は「さらにもう一段」踏み込んだ存在

ここからが本題です。フィアット 124スパイダーには、最初からアバルト仕様が用意されていました。日本市場に正規導入されたのは、このアバルト版のほうです。型式はNF2EK。つまり日本で「124スパイダー」といえば、実質的にアバルトを指します。

アバルト版では、同じ1.4Lマルチエアターボのチューニングが引き上げられ、最高出力170ps、最大トルク250Nmを発揮します。フィアット版の140psから30psの上乗せ。数字だけ見ると控えめに聞こえるかもしれませんが、車重が約1,130kgしかないことを思い出してください。パワーウェイトレシオで見れば、十分に速い部類です。

足回りにも手が入っています。ビルシュタイン製ダンパー、専用スプリング、フロントにブレンボ製ブレーキ。さらにレコードモンツァ製の排気系が標準装備で、アイドリングから独特の低音を響かせます。このあたりの「音の演出」は、アバルトというブランドが昔から大事にしてきた部分です。

機械式LSD(リミテッド・スリップ・デファレンシャル)も標準で装備されました。これはコーナー立ち上がりでのトラクションを確保するための装備で、スポーツ走行を前提にしていることがよくわかります。

マツダの骨格がもたらした恩恵と、微妙なズレ

ND型ロードスターのプラットフォームは、軽量化に徹底的にこだわった設計です。フロントダブルウィッシュボーン、リアはマルチリンク。前後重量配分はほぼ50:50。この基本骨格の完成度が、124スパイダーの走りの土台を支えています。

ただし、ターボエンジンの搭載によって、ロードスターとは微妙に重量バランスが変わっています。フィアット製1.4Lターボはマツダ製自然吸気よりやや重く、補機類のレイアウトも異なるため、フロントの重量感が少し増しています。

この違いを「劣化」と見るか「味の違い」と見るかは、乗り手の価値観によります。ロードスター的な「ヒラヒラ感」を求める人には少し鼻先が重く感じるかもしれません。一方で、ターボのトルクを活かしてグイグイ加速する楽しさは、ロードスターにはないものです。

要するに、同じ骨格を使いながら、運転の快楽の質が違う。これは優劣ではなく方向性の違いであり、むしろ共用プラットフォームの可能性を証明した好例ともいえます。

市場での立ち位置と、短くも濃い生涯

日本市場では2016年に導入が始まり、価格帯は約388万円から。同時期のND型ロードスターが約250〜320万円程度だったことを考えると、明確に上の価格帯に位置していました。

ライバルは誰だったのか。価格帯で言えばBMW Z4やポルシェ ボクスターの中古が視野に入ってくる領域で、新車としてはやや割高に見えたのも事実です。ただ、「イタリアンブランドの2シーターオープン」「アバルトのエンブレム」「ターボの刺激」という要素に価値を感じる層には、代替の利かない一台でした。

販売台数は決して多くありませんでした。そもそもニッチ中のニッチです。しかし、FCAとマツダの提携という産業構造上の面白さ、日伊のエンジニアリングが一台に同居するという稀有な成り立ち、そしてアバルトらしい「小さくて速くて楽しい」という哲学が凝縮されている点で、記憶に残る車であることは間違いありません。

2019年頃を境に、欧州の排ガス規制強化の影響もあって生産は縮小に向かい、日本市場でも2020年前後にカタログ落ちしています。FCAがステランティスへと再編される中で、このモデルの後継は生まれていません。

サソリの刻印が意味したもの

アバルトというブランドは、もともとカルロ・アバルトが小さなフィアット車をチューニングして速くすることで名を上げた存在です。排気量の小さなエンジンから最大限の性能を引き出す。その精神は、1.4Lターボで170psを絞り出すこの124スパイダーにも確かに受け継がれています。

マツダが磨き上げたライトウェイトスポーツの骨格に、イタリアの小排気量ターボ文化を接ぎ木する。冷静に考えれば異質な組み合わせですが、結果として「どちらでもない、でもどちらの良さも持っている」という不思議な一台が生まれました。

この車は、純血主義の対極にあります。でも、だからこそ面白い。自動車の歴史において、異なる文化の掛け合わせが新しい価値を生んだ例は少なくありません。アバルト 124スパイダーは、その現代版として、小さいけれど確かな足跡を残した一台です。

124スパイダーの系譜

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