ブーン X4 – M312S【軽の血が生んだリッターカー最強の異端児】

  • hodzilla51
  • 6分で系譜を理解
ブーン X4 – M312S【軽の血が生んだリッターカー最強の異端児】

コンパクトカーの世界に、突然ラリーマシンのベースモデルが現れる。しかもそれを作ったのは、軽自動車を本業とするダイハツだった。

ブーン X4(M312S)は、そんな「なぜこのメーカーが、なぜこの車で」という問いを抱えたまま誕生した、極めて特殊な一台です。

ストーリアの後継という宿命

ブーン X4を語るには、まずその前身であるストーリア X4(M112S)に触れないわけにはいきません。ダイハツは2000年代初頭、WRC(世界ラリー選手権)のスーパー1600クラスやJWRC(ジュニアWRC)に参戦するため、ストーリアをベースにした競技向けモデルを市販していました。

ストーリア X4は713ccの直列3気筒ターボ(JC-DET)を搭載し、わずか120psながら車重が約840kgという軽さで、国内ラリーやダートトライアルで猛威を振るいました。ただ、ストーリアは2004年に生産終了を迎えます。後継のコンパクトカーがブーンであり、X4の系譜もそこへ引き継がれることになったわけです。

1.3L・4気筒ターボ・4WDという構成

2006年に登場したブーン X4(M312S)は、ストーリア X4から大きくキャラクターを変えました。最大のポイントは、エンジンが直列4気筒1.3Lターボ(K3-VET)になったことです。排気量でいえばストーリアの713ccからほぼ倍増。出力は133ps/17.3kgmに達しました。

この数字だけ見ると「まあそこそこ」と思うかもしれません。しかし、車重が約910kgしかないことを考えると話は変わります。パワーウェイトレシオは約6.8kg/ps。これは同時代のスイフトスポーツ(ZC31S)の約8.5kg/psを大きく上回る水準です。

駆動方式はセンターデフ付きのフルタイム4WD。トランスミッションは5速MTのみ。ABSすら装備されないグレードが用意されるなど、明確に競技ユースを前提とした割り切りが見えます。

軽自動車技術の応用という発想

ブーン X4の面白さは、ダイハツという会社の文脈で見たときに際立ちます。ダイハツの本丸は軽自動車です。ムーヴやタント、コペンといった軽規格の中で、軽量化やターボ技術、限られた排気量での効率追求を磨いてきたメーカーです。

その軽自動車づくりの思想が、リッタークラスのコンパクトカーに持ち込まれたのがX4シリーズの本質です。車体は極限まで軽く、エンジンは小排気量ターボで効率よくパワーを出す。「大きなエンジンを積めばいい」という発想の対極にある設計哲学です。

K3-VETエンジン自体は、ブーンの通常グレードに積まれるK3-VE型をベースにターボ化したもので、ダイハツが得意とするDVVT(可変バルブタイミング)も備えていました。小さく、軽く、でも速い。それはまさにダイハツが軽自動車で追求してきた価値そのものです。

競技の世界での存在感

ブーン X4は、国内ラリーやダートトライアルの現場で確かな支持を得ました。特にJAF公認競技のPN・N車両規定において、1.5L以下・4WDターボという希少なカテゴリに属する車両として、ほぼ唯一の選択肢だった時期があります。

競技車両としての評価が高かった理由は、やはり車重の軽さとターボ4WDの組み合わせです。ダートでは軽さがそのままトラクションの良さにつながりますし、ターボのレスポンスも小排気量ゆえに比較的素直でした。

ただし、競技ベース車としての宿命で、一般ユーザーが日常使いするにはかなり割り切った仕様です。遮音材は最低限、快適装備は乏しく、内装も簡素そのもの。「これで通勤するんですか?」と聞かれたら、少し言葉に詰まるかもしれません。

生産台数の少なさと終焉

ブーン X4は受注生産に近い形で販売されていました。正確な生産台数は公表されていませんが、年間の販売台数は極めて少なかったとされています。ダイハツのラインナップの中でも、完全に「知る人ぞ知る」存在でした。

2010年にブーンがフルモデルチェンジを迎えた際、X4は後継モデルが設定されませんでした。ダイハツがモータースポーツ活動を縮小していく流れの中で、ホモロゲーション取得のためのベース車両を市販する意義が薄れたことが大きな理由と考えられます。

つまり、ブーン X4はダイハツがラリーに本気だった時代の最後の証です。ストーリア X4から受け継いだ「小さくて速い4WDターボ」の系譜は、ここで途絶えました。

軽メーカーだからこそ生まれた一台

振り返ってみると、ブーン X4の存在意義は「ダイハツが作った」という点に集約されます。トヨタでもスバルでもなく、軽自動車を主戦場とするダイハツだからこそ、900kg台の車体にターボ4WDを詰め込むという発想が自然に出てきた。

大排気量で押すのではなく、小さなエンジンと軽い車体で戦う。それは軽自動車規格という制約の中で鍛えられた思想の延長線上にあるものです。ブーン X4は、その思想がリッターカーの枠で花開いた、稀有な一台だったと言えます。

後継は生まれず、系譜は途切れました。けれど、国内ダートラやラリーの現場では今もM312Sが走り続けています。カタログから消えた車が、競技場で生き続けている。

それ自体が、この車の本質を物語っているのではないでしょうか。

ストーリア X4の系譜

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2006年〜
小鍛治康人(やすと)

 

ブーン X4 – M312S【軽の血が生んだリッターカー最強の異端児】

Daihatsu

小鍛治康人(やすと)

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hodzilla51

クルマの系譜を追ってたら、いつの間にかサイトになっていました

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