チェロキー – KL【フィアットの血で蘇った、らしくないチェロキー】

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  • 8分で系譜を理解
チェロキー – KL【フィアットの血で蘇った、らしくないチェロキー】

チェロキーという名前を聞いて、多くの人が思い浮かべるのは四角くて武骨なXJか、あるいはそのイメージの延長線にある何かでしょう。

ところが2014年に登場したKL型は、その期待をまるごとひっくり返すような顔をしていました。細く裂けたようなヘッドライト、流れるようなボディライン。

「これがチェロキー?」という反応は、むしろメーカーの狙い通りだったのかもしれません。

チェロキー不在の時代と、復活の背景

KL型を語るには、まずその前に「チェロキーが存在しなかった時代」を押さえる必要があります。

先代にあたるKJ型リバティ(北米ではリバティ、海外市場ではチェロキーの名も使用)が2012年に生産終了して以降、ジープのラインナップからチェロキーの名は一時的に消えていました。

その間にクライスラーを取り巻く環境は激変しています。2009年の経営破綻、そしてフィアットによる段階的な買収。2014年にはフィアット・クライスラー・オートモービルズ(FCA)として正式に統合されます。KL型チェロキーは、まさにこの再編のさなかに企画・開発された車です。

つまりKLは、単なるモデルチェンジではありません。フィアット傘下で「ジープ」というブランドをどう再構築するか、その回答の一つとして生まれた車です。ジープにとってのグランドチェロキーが上位、レネゲードが入門編だとすれば、チェロキーはその中間を埋める「ど真ん中」の存在として位置づけられました。

9速ATという野心と、その現実

KL型チェロキーの技術的な目玉は、ZF製の9速オートマチックトランスミッション(9HP)でした。当時、乗用車ベースのSUVに9速ATを載せること自体がかなり先進的で、世界初の量産搭載例のひとつです。

狙いは明確で、多段化によって高速巡航時のエンジン回転数を下げ、燃費を改善すること。2010年代前半のアメリカ市場では、CAFE規制(企業平均燃費基準)の強化が迫っており、SUVといえども燃費性能を無視できない時代に入っていました。9速ATはその回答として合理的だったわけです。

ただし、デビュー直後の評価は手放しで褒められるものではありませんでした。変速ロジックのぎこちなさ、低速域でのシフトハンティングなど、ソフトウェアの熟成不足を指摘する声は少なくなかった。後にアップデートで改善されていきますが、「新しい技術を最初に載せる車」が背負うリスクを、KLはそのまま引き受けた格好です。

あのデザインは、なぜああなったのか

KL型チェロキーの最大の話題は、やはりあのフロントフェイスでしょう。ヘッドライトを上下に分割し、細いデイタイムランニングライトを上段に、メインのプロジェクターランプを下段に配置するという、当時としてはかなり攻めたデザインでした。

このデザインを手がけたのは、FCA傘下でジープブランドのデザインを統括していたマーク・アレン氏です。彼の意図は「ジープらしさを残しつつ、都市型SUVとしてのモダンさを打ち出す」こと。7スロットグリルというジープのアイコンは残しつつ、それ以外の要素で従来のジープ像を意図的に崩しにかかっています。

賛否は当然ありました。というより、否のほうが目立ったと言ってもいいかもしれません。「チェロキーらしくない」「ジープに見えない」という声は根強かった。ただ、これはKLが担っていた役割を考えれば理解できます。

KLが狙っていたのは、トヨタ・RAV4やホンダ・CR-V、フォード・エスケープといったミドルサイズSUVの顧客層です。つまり、従来のジープファンだけでなく、都市部でSUVを日常の足として使う層にリーチする必要があった。そのためには「武骨で男臭い」だけでは足りない、という判断があったのでしょう。

プラットフォームと走りの実力

KL型のプラットフォームは、フィアット由来のCUSWプラットフォームをベースにしています。これはダッジ・ダートやクライスラー200とも共有する、FCA再編の産物です。ジープ専用設計ではなく、グループ内での共用プラットフォーム戦略の一環でした。

ただし、ジープとして仕立てるにあたって手は抜いていません。4WDシステムには「Jeep Active Drive」および「Jeep Active Drive Lock」を用意し、後者にはリアデフロックも備えています。上位グレードのTrailhawkでは、さらにオフロード性能を引き上げた専用セッティングが施されました。

Trailhawkというグレードの存在は重要です。これは「都市型SUVだけど、ジープである以上オフロードも走れます」という宣言であり、KLがただのクロスオーバーではないことを示すためのアンカーでした。実際、Trailhawk仕様はJeepの「Trail Rated」バッジを取得しており、一定のオフロード性能が公式に保証されています。

エンジンは2.4L直4のタイガーシャークと、3.2L V6のペンタスターの2本立て。日本市場には当初2.4Lが導入され、後に3.2Lも追加されました。2.4Lは日常使いには十分ですが、車重約1,700kgに対してはやや非力という評もあり、3.2L V6のほうが車格に見合ったゆとりがあると感じる人が多かったようです。

マイナーチェンジで「普通」に近づいた後期型

2018年のマイナーチェンジで、KL型チェロキーは大きくフェイスリフトされます。あの上下分割ヘッドライトは廃止され、より一般的な一体型のヘッドライトデザインに変更されました。フロントマスクは一気に「普通のSUV」に近づいた印象です。

これをどう見るかは、立場によって分かれます。「ようやくまともになった」という声もあれば、「結局あのデザインは失敗だったと認めたのか」という見方もある。ただ、メーカーとしてはマーケットの反応を受けて軌道修正したという、ごく合理的な判断だったのでしょう。

後期型ではエンジンラインナップにも変更があり、北米市場では2.0Lターボ直4が追加されました。これもFCAグループ内で展開されていたGMEエンジンで、ダウンサイジングターボの流れに沿ったものです。時代の要請に応じてパワートレインを刷新できたのは、グループ経営の恩恵と言えます。

KLチェロキーが系譜に残したもの

KL型チェロキーは2023年に生産を終了しました。後継モデルは明確にはアナウンスされておらず、ジープのラインナップ再編の中でチェロキーの名前がどうなるかは不透明なままです。

振り返ると、KLは「ジープがグローバルブランドとして生き残るための実験台」だったように見えます。フィアットの技術とプラットフォームを使い、都市型SUV市場に本格参入し、デザインでも大胆に冒険した。その結果、成功も失敗も両方経験した車です。

ただ、KLが切り開いた道は確実にあります。ジープが「ラングラーとグランドチェロキーだけのブランド」から脱却し、レネゲードやコンパスといった都市型モデルを展開する流れの中で、KLチェロキーはその先陣を切った存在でした。

「らしくない」と言われたチェロキー。

でも、その「らしくなさ」こそが、ジープというブランドの生存戦略そのものだったのです。好き嫌いは別として、KLがなければ今のジープのポートフォリオは成立していなかった。

そう考えると、この車の存在意義は見た目以上に大きいものがあります。

チェロキーの系譜

小鍛治康人(やすと)

 

チェロキー – KL【フィアットの血で蘇った、らしくないチェロキー】

ジープ

小鍛治康人(やすと)

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hodzilla51

クルマの系譜を追ってたら、いつの間にかサイトになっていました

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