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E 63 AMG/E 63 S 4MATIC+ – W213/S213【AMGが四駆を受け入れた転換点】

  • hodzilla51
  • 8分で系譜を理解
E 63 AMG/E 63 S 4MATIC+ – W213/S213【AMGが四駆を受け入れた転換点】

AMGにとって四輪駆動は、長らく「やらない選択」でした。

後輪駆動こそがAMGの走りの核であり、それを手放すことはブランドの根幹に触れる話だった。ところがW213型E 63 AMGは、その禁忌をあっさり踏み越えてきます。

しかも、ただ四駆にしただけではなく「FRに戻せる四駆」という奇妙な回答を用意して。

この世代のE63は、AMGが速さの定義を書き換えた車です。

Eクラス史上最も過激な世代

2016年に登場したW213型Eクラスは、メルセデスの中核を担うビジネスセダンです。その高性能版としてE 63 AMGが設定されたのは2017年のこと。先代W212型E63の後を受ける形で登場しました。

ただし、中身の変化は世代交代という言葉では足りません。

先代まで頑なに守ってきた後輪駆動を捨て、AMG初の完全4MATIC+をこの車で採用したからです。GT-Rでもなく、Cクラスでもなく、Eクラスで。この選択自体が、AMGの戦略転換を物語っています。

エンジンは先代から引き続きM177型4.0リッターV8ツインターボ。

標準のE63で571馬力、上位のE63Sでは612馬力を発生します。先代W212後期の585馬力(S仕様)からさらに引き上げられ、Eクラスセダンとしては異次元の出力です。

なぜAMGは四駆を選んだのか

AMGが後輪駆動にこだわっていたのは、感覚的な好みだけの話ではありません。ドライバーがパワーの行き先を直接感じ取れること、つまり「人間が制御している実感」がFRの核心でした。

四駆にすると、その感覚が薄れるというのがAMGの長年の主張だったわけです。

しかし、現実的な問題が先代で顕在化していました。W212型E63は後輪駆動で585馬力。雨の日の発進はもちろん、ドライでも低速域でのトラクション確保に苦労する場面がありました。タイヤの性能だけでは吸収しきれない領域に、パワーが到達してしまっていたのです。

加えて、ライバルの動向も無視できません。BMWのM5(F90)も同世代で四駆化に踏み切っています。アウディRS 6はもともとクワトロが前提。ハイパフォーマンスセダンの市場では、四駆はもはや妥協ではなく合理的な選択肢になっていました。

AMGの開発陣がたどり着いた答えは、「普段は四駆、でも本気で遊びたいときはFRに戻せる」という構造でした。これがAMG 4MATIC+です。電子制御多板クラッチで前後のトルク配分を可変させ、通常走行では安定性を確保しつつ、Sモデルではドリフトモードを選ぶとフロントへの駆動を完全に切り離せます。

ドリフトモードという「言い訳」の巧みさ

正直に言えば、ドリフトモードはほとんどのオーナーが日常的に使う機能ではありません。サーキットや広い場所でなければ意味がないし、ESCも完全にオフになるため、かなりの腕が必要です。

ただ、この機能の存在自体が重要でした。AMGファンにとって「四駆になった」という事実は、感情的に受け入れがたい部分がある。そこに「でもFRに戻せますよ」という選択肢を残すことで、四駆化への心理的な抵抗をうまく和らげたわけです。

実際、AMGのトビアス・メアース氏(当時CEO)は「我々はドライバーから選択肢を奪わない」と発言しています。この言葉は、技術的な説明というより、ブランドの哲学を守るための宣言に近い。四駆化という大きな変更を、AMGのアイデンティティと矛盾させないための、極めて意識的なメッセージでした。

速さの次元が変わった

結果として、W213型E63Sの0-100km/h加速は3.4秒。先代の3.5秒(S 4MATIC、後期に追加された四駆仕様)からさらに短縮されています。ただ、数字以上に変わったのは「速さの質」です。

後輪駆動時代のE63は、パワーを路面に叩きつけるような荒々しさがありました。

それが四駆化によって、発進からの加速が恐ろしくスムーズになった。612馬力が4本のタイヤに分散されることで、暴力的なパワーが「使える速さ」に変換されたのです。

トランスミッションもAMG スピードシフト MCT 9速に進化しています。湿式多板クラッチを使ったこの9速ATは、トルコン式より伝達効率が高く、変速も鋭い。先代の7速から段数が増えたことで、高速巡航時の回転数も下がり、長距離移動の快適性にも寄与しています。

足回りはAMG RIDE CONTROL+と呼ばれるエアサスペンションを採用。減衰力を電子制御で可変させ、コンフォートからスポーツ+まで幅広い特性をカバーします。2トン近い車重を持つEクラスセダンで、サーキットレベルの動的性能と日常の快適性を両立させるには、こうした電子制御の介入が不可欠でした。

ワゴンという選択肢の意味

W213世代のE 63には、セダン(W213)だけでなくワゴン(S213)も用意されています。これはAMGのEクラスでは伝統的なラインナップですが、612馬力のステーションワゴンという存在は、冷静に考えるとかなり異様です。

ただ、欧州市場ではワゴンの需要が根強く、特にドイツ本国ではEクラスワゴンの販売比率は高い。AMGにとってワゴンは「趣味のバリエーション」ではなく、れっきとしたビジネス上の主力モデルです。実用性を犠牲にせず最高の動力性能を手に入れたいというニーズに、S213型E63Sは正面から応えています。

荷室容量はワゴンで640リッター(後席倒し時は最大1,820リッター)。家族の荷物を積んでアウトバーンを300km/h近くで巡航できる車は、世界を見渡してもそう多くありません。

W213が系譜に残したもの

W213型E 63 AMGは、AMGにとって単なるモデルチェンジではありませんでした。後輪駆動という聖域を手放し、四輪駆動を主軸に据えるという決断を、Eクラスで最初に実行した世代です。

この判断は、その後のAMGラインナップ全体に波及しています。

C 63(W206)は直4ハイブリッド+四駆へと舵を切り、GT 4ドアクーペも4MATIC+を標準装備する。AMGが「駆動方式よりも、ドライバーに何を感じさせるか」を優先する方向に転換した起点が、このW213型E63だったと言えます。

そしてもうひとつ。W213世代は、AMG製V8ツインターボをフルスペックで積む最後のEクラスになる可能性が高い。

後継のW214型Eクラスでは、AMG E 53が直6ハイブリッドに移行し、V8のE 63は設定されていません。つまりこの世代は、V8 AMGのEクラスという系譜の最終章でもあるのです。

四駆を受け入れることでV8の全力を「使い切れる車」に仕上げ、同時にそのV8自体が終焉を迎える。

W213型E 63 AMGは、AMGの過去と未来がちょうど交差する地点に立っています。だからこそ、この車には記録以上の意味がある。

速さの数字ではなく、「AMGが何を守り、何を手放したか」を語る車です。

E63Sの系譜

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小鍛治康人(やすと)

この記事を書いた人

hodzilla51

クルマの系譜を追ってたら、いつの間にかサイトになっていました

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