「アルファードの兄弟車」と言われ続けた車が、一度だけ本気で独り立ちしようとした時期があります。それが30系ヴェルファイアの時代です。結果的にこの世代は、ヴェルファイアという名前が最も輝いていた時期であり、同時にその先の統合を予感させる世代でもありました。
ネッツ店の看板を背負った高級ミニバン
ヴェルファイアという車名が生まれたのは2008年、初代にあたる20系からです。トヨタの販売チャネル制度のもと、トヨペット店にアルファード、ネッツ店にヴェルファイアという棲み分けでした。つまり、出自からして「販売戦略上の双子」です。
ただ、20系の時点ではヴェルファイアのほうが販売台数で上回る月もあり、ネッツ店の若い顧客層に刺さっていたのは明らかでした。押し出しの強い顔つきと、アルファードよりやや攻めたデザインが支持されていたのです。
30系はその流れを受けて、2015年1月にフルモデルチェンジで登場します。アルファードと同時デビュー。プラットフォームもパワートレインも共有しつつ、内外装のキャラクターで差をつけるという、20系と同じ基本構造を踏襲しました。
「もうひとつのアルファード」では終わらせない
30系ヴェルファイアの開発で最も力が入っていたのは、フロントフェイスの差別化です。アルファードが大型グリルで「威厳」を表現したのに対し、ヴェルファイアは二段構えのヘッドランプとメッキバーの組み合わせで「鋭さ」を打ち出しました。
この時期のトヨタは、アルファード/ヴェルファイアを「LLクラスミニバン」として明確に高級路線へ振っています。先代まではエスティマとの棲み分けも曖昧でしたが、30系では完全に「ミニバンの最上級」というポジションを確立しにいきました。
パワートレインは2.5L直4の2AR-FE型、3.5L V6の2GR-FKS型(後期)、そして2.5Lハイブリッドの3本立て。特にハイブリッドモデルはE-Fourと呼ばれる電動4WDを組み合わせ、2トン超のボディで18.4km/L(JC08モード)という燃費を実現しています。この数値だけ見ると地味ですが、車重を考えれば相当に優秀です。
足回りにはダブルウィッシュボーン式リアサスペンションを採用。ミニバンとしてはかなり贅沢な構成で、これは乗り心地のフラット感に直結しています。高速道路での安定感は、同クラスの他車と比べても明確に一段上でした。
2017年マイナーチェンジという転換点
30系の物語を語るうえで外せないのが、2017年12月のマイナーチェンジです。いわゆる後期型への切り替えですが、ここでの変更は単なるフェイスリフトにとどまりません。
まず、Toyota Safety Senseの第2世代が全車標準装備になりました。プリクラッシュセーフティ、レーダークルーズコントロール、レーントレーシングアシストなど、当時としてはかなり充実した内容です。高級ミニバンの購買層は家族持ちが多い。安全装備の強化は、商品力として非常に効いたはずです。
3.5LのV6エンジンは2GR-FE型から2GR-FKS型に換装され、Direct Shift-8ATとの組み合わせに変更されました。最高出力は280psから301psへ。トルクも同時に向上しています。これは単なるスペック更新ではなく、レクサスにも展開されるユニットへの統一という意味合いがありました。
ただ、この後期型で注目すべきは数字の変化よりも、アルファードとの販売バランスが崩れ始めたことです。前期型まではヴェルファイアが優勢、あるいは拮抗していた販売台数が、後期型以降は明確にアルファード優位に傾きます。
なぜアルファードに逆転されたのか
理由はひとつではありません。ただ、最も大きいのは「高級ミニバンに求められるもの」が変わったことでしょう。
20系の頃、ヴェルファイアを選んでいた層は「人と違うものが欲しい」「アルファードは年配っぽい」という感覚で動いていました。ところが30系後期の頃になると、アルファードのほうが「高級車としてのわかりやすさ」で圧倒的に有利になります。法人需要、送迎用途、VIP輸送。そうした文脈では、ヴェルファイアの「鋭さ」よりアルファードの「威厳」のほうが選ばれやすいのです。
さらに、中国や東南アジアでの人気がアルファードに集中したことも見逃せません。海外ではヴェルファイアの知名度が低く、輸出やインバウンド需要がアルファードに偏りました。リセールバリューにも差がつき始め、それが国内の購買判断にもフィードバックされるという循環が生まれたのです。
要するに、ヴェルファイアは「若くてアグレッシブな高級ミニバン」という独自のポジションを築いたものの、市場そのものが「わかりやすい高級感」に収斂していく流れには抗えなかった、ということです。
エグゼクティブラウンジという頂点
30系で忘れてはならないのが、エグゼクティブラウンジグレードの存在です。2列目に航空機のファーストクラスを思わせる独立シートを配置し、電動オットマン、格納式テーブル、専用の木目パネルを奢った仕様でした。
価格は700万円台後半から。2015年当時、ミニバンにこの価格をつけること自体がひとつの事件でした。しかし、これが売れた。しかもかなりの台数が出ました。
この事実は、日本の高級車市場に対する重要な問いかけです。セダンではなくミニバンが「おもてなしの最高峰」になり得る。30系アルファード/ヴェルファイアのエグゼクティブラウンジは、それを証明した最初の世代と言っていいでしょう。後継の40系アルファードがさらにその路線を推し進めたのは、30系での成功があったからです。
40系への橋渡し、そして縮小
2023年、後継となる40系が登場します。ここで起きた最大の変化は、ヴェルファイアのグレード体系が大幅に絞られたことでした。アルファードが幅広いグレード展開を維持する一方、ヴェルファイアは「Z Premier」を頂点とする少数精鋭の構成に。事実上、アルファードが主役でヴェルファイアはスポーティ寄りの派生という位置づけに変わったのです。
トヨタの販売チャネル統合(2020年)により、同じ店舗でアルファードもヴェルファイアも買えるようになったことも大きい。かつてのように「ネッツ店に行くからヴェルファイア」という選び方は消滅しました。
30系は、ヴェルファイアがアルファードと対等に張り合えた最後の世代です。販売台数で勝っていた時期すらあった。それが逆転し、統合へと向かう転換点をこの世代が担っていたことは、系譜として記憶しておくべきでしょう。
「もうひとつの正解」が存在できた時代の記録
30系ヴェルファイアは、トヨタの高級ミニバン戦略が最も多様だった時代の産物です。同じ中身でも顔と味付けを変えれば、違う客層に届く。その仮説が成立していた時期の、もっとも完成度の高い実例でした。
結果的に市場は「アルファード一強」へと収斂しましたが、それは30系ヴェルファイアの失敗ではありません。むしろ、高級ミニバンという市場そのものを二枚看板で押し広げたからこそ、アルファードが今のポジションを得られたとも言えます。
「影」だったかもしれない。でも、影があったから光が際立った。30系ヴェルファイアは、そういう存在です。
ヴェルファイアの系譜


ヴェルファイア – 30系【アルファードの影から抜け出そうとした反骨のミニバン】
Toyota

この記事を書いた人
hodzilla51
クルマの系譜を追ってたら、いつの間にかサイトになっていました




