ヴェルファイア – 20系【アルファードの影ではなく、もうひとつの本流】

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ヴェルファイア – 20系【アルファードの影ではなく、もうひとつの本流】

ヴェルファイアという車名を聞いて、「アルファードの兄弟車でしょ」と片づける人は多いと思います。事実その通りなんですが、ただの兄弟車で終わらなかったからこそ、この車は語る価値があります。

2008年に登場した20系ヴェルファイアは、初代です。つまりそれ以前にはヴェルファイアという車は存在しなかった。アルファードにはすでに初代(10系)がありましたから、ヴェルファイアは後から生まれた側です。では、なぜトヨタはわざわざ新しい名前の高級ミニバンを作ったのか。そこにこの車の本質があります。

販売チャネルという「トヨタの事情」

20系ヴェルファイアの誕生を理解するには、当時のトヨタの販売体制を知る必要があります。トヨタには長らく4つの販売チャネルがありました。トヨタ店、トヨペット店、カローラ店、そしてネッツ店です。それぞれに専売車種があり、同じプラットフォームの車でも販売店ごとに別の顔を与えるのがトヨタの伝統でした。

初代アルファード(10系)の時代、トヨペット店には「アルファードG」、ネッツ店には「アルファードV」という形で振り分けられていました。同じアルファードという名前を共有しつつ、フロントグリルなどの意匠で差をつけるやり方です。

ただ、この方式には限界がありました。名前が同じだと、お客さんから見れば「どっちで買っても同じ車」に見えてしまう。販売店間の競争意識は生まれにくいし、ネッツ店としても「うちだけの看板車種」という誇りが持ちにくい。そこでトヨタが出した答えが、名前ごと分けるという判断でした。

「もうひとつのアルファード」ではない設計意図

2008年5月、2代目アルファード(20系)と同時にヴェルファイアが登場します。プラットフォームは共通、パワートレインも共通。2.4L直4の2AZ-FEと3.5L V6の2GR-FEという2本立て、さらにハイブリッドも後に追加されます。基本骨格が同じである以上、走りの本質に大きな差はありません。

では何が違うのか。端的に言えば、顔つきと、それが生み出すキャラクターの方向性です。アルファードが上品さや威厳を軸にしたのに対し、ヴェルファイアは「力強さ」「押し出し」をより前面に出しました。大型のメッキグリルに二段構えのヘッドライト。好みは分かれるところですが、このデザインの狙いは明確でした。

ネッツ店はもともと、若年層やアクティブな層をターゲットにしたチャネルです。ヴィッツやist、あるいはかつてのアルテッツァなど、少し攻めた商品を扱ってきた歴史があります。そこに最上級ミニバンを置くなら、アルファードと同じ上品路線ではなく、もう少しアグレッシブなほうが筋が通る。ヴェルファイアの顔つきは、そういう商品企画上のロジックから生まれたものです。

「迫力」が市場で正解だった時代

結果として、ヴェルファイアは大当たりしました。ここが面白いところです。本来はアルファードが本流で、ヴェルファイアはチャネル対応の派生車だったはずなのに、販売台数ではヴェルファイアがアルファードを上回る時期が続いたのです。

理由はいくつか考えられます。まず、2000年代後半の日本市場では、ミニバンの「押し出し感」が購買動機として非常に強く機能していました。大きなグリル、存在感のあるフロントフェイス。これは単なる見た目の好みではなく、「この車に乗っている自分」を周囲にどう見せたいかという、ある種のコミュニケーションツールとしての価値です。

ヴェルファイアのデザインは、まさにそこに刺さりました。上品さよりも力強さ、控えめよりも主張。高級ミニバンを求める層が必ずしも「品の良さ」だけを求めていたわけではなかった、ということをヴェルファイアの販売実績は証明しています。

中身の実力──走りと室内空間

見た目の話ばかりしてしまいましたが、20系の中身もきちんと進化しています。プラットフォームは初代アルファードから刷新され、ボディ剛性が向上しました。全長4,885mm、全幅1,840mm、全高1,900mmという堂々たるサイズの中に、フラットで広大な室内空間を確保しています。

特に3.5L V6の2GR-FEエンジンは最高出力280psを発生し、2トンを超える車体をしっかり動かす余裕がありました。6速ATとの組み合わせで、高速巡航時の静粛性も高い。このクラスのミニバンに「走りの良さ」を求める人は少数派かもしれませんが、重い車体をストレスなく走らせるだけのパワーは、結果として乗員全員の快適性に直結します。

2.4Lの2AZ-FEはさすがに車重に対してやや非力な場面もありましたが、日常使いでは十分。価格を抑えたいユーザーにとっては現実的な選択肢でした。2011年にはハイブリッドモデルも追加され、燃費を気にする層にも門戸を開いています。

室内の仕立てにおいては、エグゼクティブパワーシートを備えた7人乗り仕様が象徴的です。セカンドシートにオットマン付きのキャプテンシートを配置し、後席に座る人を「もてなす」という思想が明確に出ていました。これは後の30系、40系にも引き継がれるヴェルファイア/アルファードの核心的な価値です。

兄弟車の力学──なぜヴェルファイアが勝ったのか

20系の世代でヴェルファイアがアルファードを販売面で凌駕した現象は、トヨタ社内でも少なからず影響を与えたはずです。というのも、この結果は「高級ミニバンの顧客が何を求めているか」についての、リアルな市場の回答だったからです。

従来の高級車的な価値観──控えめな品格、落ち着いた佇まい──は、セダンの文脈では正解でした。しかしミニバンという、ある意味で実用車の延長線上にある車種では、「わかりやすい存在感」のほうが訴求力を持った。これはヴェルファイアだけの話ではなく、同時期の日産エルグランドやホンダの動向を見ても、ミニバン市場全体がそういう方向に動いていた時代でした。

ヴェルファイアは、その流れのど真ん中に、ちょうどいいタイミングで投入されたわけです。

初代が残したもの

20系ヴェルファイアは2015年に30系へバトンを渡します。後継の30系では、ヴェルファイアの「迫力路線」がさらに強化され、アルファードとの差別化もより明確になりました。そして現行の40系では、逆にアルファードが前面に押し出され、ヴェルファイアはスポーティ寄りのキャラクターへと再定義されています。

つまり、アルファードとヴェルファイアの関係性は世代ごとに揺れ動いている。その起点となったのが、この20系です。「高級ミニバンにはひとつの正解しかない」という前提を崩し、迫力という価値軸が市場で通用することを証明したのが初代ヴェルファイアでした。

チャネル戦略の産物として生まれた車が、結果的に市場の嗜好を可視化し、その後のトヨタの商品戦略を動かした。20系ヴェルファイアは、派生車という出自を超えて、高級ミニバンの文法を書き換えた一台だったと言っていいと思います。

ヴェルファイアの系譜

小鍛治康人(やすと)

 

ヴェルファイア – 20系【アルファードの影ではなく、もうひとつの本流】

Toyota

小鍛治康人(やすと)

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hodzilla51

クルマの系譜を追ってたら、いつの間にかサイトになっていました

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