クラウンとは
クラウンは、日本人にとっての「上がり」が何かを、時代ごとに定義し直してきたクルマです。
1971年のS60/70系が、その転換点でした。それまで黒塗りの社用車だったクラウンに白いボディを与え、個人で買う高級車という市場を作りにいったのです。「白いクラウン」という呼び方が広まったこと自体が、この判断の成果でした。誰の車かではなく、誰が買うかで高級車を定義し直したわけです。
1983年のS120系で、そのイメージが完成します。「いつかはクラウン」という一言が、日本人の出世観と車の階級をそのまま結びつけました。買えるようになったら買う。それが目標として機能する時代のクルマです。
1991年のS140系はバブルの絶頂で企画された世代で、重厚さと装備の充実を極限まで押し進めます。そして、その方向の限界も同時に露呈しました。上質さを足していくやり方は、バブルが弾けた瞬間に説得力を失ったからです。
だから2003年のS180系、ゼロクラウンは自己否定から始まりました。「ZERO CROWN。すべてを、変えた。」という宣言のとおり、骨格もエンジンも操縦性も刷新し、若い世代に売れる高級車へ組み替えます。それまで積み上げたものを捨てる判断ができたことが、クラウンという商品の強さでした。
2012年のS210系は、ピンクのクラウンまで用意して話題を取りにいきます。ただ、この頃には高級セダンという形式自体が縮んでいました。「いつかはクラウン」という物語の到達点であると同時に、その物語が通じなくなった時期でもあります。
2022年のS230系は、その状況に対する答えでした。セダンだけでなくクロスオーバー、スポーツ、エステートと複数の車型を同じ名前で展開する。クラウンは車種名ではなくブランドになったわけです。
クラウンの型式の並びは、日本の「いい車」の定義が、どこで誰の手に移っていったかの記録そのものです。






