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Toyotaカローラ

オーリス – E150/E180系【カローラを名乗らなかったカローラの話】

  • hodzilla51
  • 8分で系譜を理解
オーリス – E150/E180系【カローラを名乗らなかったカローラの話】

カローラの名前を外したカローラ...

オーリスという車を一言で説明するなら、たぶんこれが一番正確です。

トヨタが欧州市場を強く意識して投入したCセグメントハッチバックでありながら、日本ではどこか居場所を見つけきれなかった。その微妙さこそが、オーリスという車の本質だったように思います。

カローラから名前を切り離した理由

オーリスの前身は、カローラランクスです。もっと遡れば、カローラFXやカローラレビンといったハッチバック系のカローラに連なる系譜の上にあります。つまり、もともとカローラファミリーの一員だったわけです。

ところが2006年に登場した初代オーリス(E150系)は、あえて「カローラ」の名前を外しました。これは単なるネーミング変更ではなく、明確な戦略的判断です。当時のトヨタは、欧州市場でのブランドイメージ刷新を強く意識していました。欧州において「カローラ」は実用車としての認知が強すぎた。もう少し若く、もう少しスポーティに見せたい。そのためには名前ごと変える必要があった、という判断です。

車名の「Auris」はラテン語の「aurum(金)」に由来するとされています。ゴールド、つまり価値あるものという意味を込めたわけですが、正直なところ日本の消費者にはあまりピンとこなかったかもしれません。ただ、欧州向けの商品企画としては筋が通っていました。フォルクスワーゲン・ゴルフやフォード・フォーカスといった強豪がひしめくCセグメントで、「安くて壊れないカローラ」ではなく「走りの質感で勝負できるトヨタ車」として戦いたかったのです。

E150系──欧州基準で作ったハッチバック

初代オーリスは、欧州向けカローラと基本設計を共有しつつ、内外装のデザインや足回りのセッティングを独自に仕立てた車です。プラットフォームはMCプラットフォームで、当時のカローラやウィッシュなどと共通。エンジンは1.5L(1NZ-FE)と1.8L(2ZR-FE)の2本立てが日本仕様の基本でした。

注目すべきは、欧州仕様ではディーゼルエンジンやMTが主力だったのに対し、日本仕様はCVTが中心だったことです。ここにオーリスの「二重性」が表れています。欧州ではゴルフの対抗馬として走りの質を問われ、日本では「カローラの代わりのハッチバック」として実用性を問われる。同じ車なのに、求められる役割がまるで違っていたわけです。

デザインは当時のトヨタとしてはやや攻めた印象で、フロントマスクに個性を持たせようとした意図は感じられました。ただ、突き抜けたインパクトがあったかというと、そこは正直微妙なところです。「悪くはないけど、強く印象に残らない」。これは初代オーリスに対する当時の市場の空気感をかなり正確に表しています。

E180系──本気で欧州と戦おうとした2代目

2012年に登場した2代目(E180系)は、初代の課題をかなり明確に意識した進化を遂げています。プラットフォームは新世代のMCプラットフォームに刷新され、ボディ剛性が大幅に向上しました。欧州での走行テストを重ね、足回りの煮詰めにも相当な工数をかけたとされています。

デザインも大きく変わりました。キーンルックと呼ばれるトヨタの新しいデザインランゲージを採用し、フロントフェイスはかなりシャープになっています。初代の「おとなしさ」への反省が見て取れるほど、2代目は意志のある顔つきをしていました。

パワートレインでは、2015年のマイナーチェンジで1.2Lターボエンジン(8NR-FTS)が追加されたことが大きなトピックです。トヨタがダウンサイジングターボに本格的に取り組んだ初期の成果であり、116馬力・185Nmというスペックはこのクラスとしては十分な水準でした。さらに6速MTも設定されています。CVTだけでなくMTを用意したあたりに、欧州市場への本気度が見えます。

加えて、ハイブリッドモデルも設定されました。1.8Lエンジンにモーターを組み合わせたTHS IIで、プリウスと基本的に同じシステムです。欧州では環境規制への対応としてハイブリッドの需要が高まっていた時期であり、ゴルフにはないトヨタ独自の武器として機能しました。

日本市場での苦戦と、その構造的な理由

ここまで読むと「なかなか良い車じゃないか」と思えるかもしれません。実際、欧州ではそれなりの存在感を発揮していました。しかし日本市場では、オーリスは最後まで販売的に苦戦しています。

理由はいくつかあります。まず、日本ではCセグメントハッチバックというジャンル自体が弱い。軽自動車やミニバン、SUVが圧倒的に強い市場で、「5ドアハッチバックのセダン代替」は響きにくかったのです。

さらに、カローラの名前を外したことが日本では裏目に出た面もあります。欧州では「カローラ=退屈」というイメージからの脱却が必要でしたが、日本では「カローラ=信頼と安心」というブランド資産がまだ生きていました。オーリスという聞き慣れない名前に乗り換える動機が、日本の消費者には薄かったわけです。

販売チャネルの問題もありました。オーリスはネッツ店扱いでしたが、同じネッツ店にはヴィッツやアクアといった強力なコンパクトカーが並んでいます。店頭での存在感という点でも、オーリスは埋もれやすいポジションにありました。

「カローラスポーツ」への転生

オーリスの物語は、2018年に一つの結末を迎えます。後継モデルとして登場したのはカローラスポーツ。TNGAプラットフォーム(GA-C)を採用し、走りの質を根本から変えた新世代のハッチバックです。そしてその名前には、再び「カローラ」が冠されていました。

これは、オーリスという実験の総括とも言える判断です。欧州でも日本でも、結局「カローラ」というブランドの引力は無視できなかった。ただし、オーリス時代に磨いた「走りで勝負するハッチバック」という方向性は、カローラスポーツにしっかり引き継がれています。むしろ、オーリスで蓄積した欧州的な走りの作り込みがあったからこそ、カローラスポーツはあれだけ高い評価を得られたとも言えます。

つまりオーリスは、カローラが「走れるカローラ」に進化するための助走期間だったのかもしれません。名前としては消えましたが、そこで試みられたことは次の世代にちゃんと残っています。

名前を変えても、変えなくても

オーリスを振り返ると、ブランド戦略の難しさが浮かび上がってきます。欧州では「カローラじゃない名前」が必要で、日本では「カローラの名前」が必要だった。同じ車なのに、市場が変わると名前の持つ意味がまるで逆になる。これは自動車メーカーが常に直面するジレンマです。

車としてのオーリスは、決して悪い車ではありませんでした。特に2代目のE180系は、ダウンサイジングターボにMT、ハイブリッドと多彩なパワートレインを揃え、走りの質感も確実に上がっていました。ただ、「この車でなければならない理由」を消費者に伝えきれなかった。それは車の出来というより、ポジショニングの問題だったように思います。

カローラを名乗らなかったカローラ。その12年間の試行錯誤は、トヨタにとって決して無駄ではなかったはずです。少なくとも、今のカローラスポーツが持つ「走れるカローラ」という確かな手触りは、オーリスが欧州の道で磨いてきたものの延長線上にあります。

カローラの系譜

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2006年〜

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