アルトワークスとは
アルトワークスは、最初の一台で「馬力」の話を終えてしまったクルマです。
歴代5世代を型式で追うと、その異様さがよく分かります。
1987年のCA72V/CC72V。実用車のアルトに、軽自動車初の550ccツインカムターボを積み、最高出力は64PS。610kgの小さな車体には、十分すぎる数字でした。そして最上位グレードの最高出力は、2015年のHA36Sまで変わりません。
普通なら、モデルチェンジのたびに馬力を上げればいい。ワークスは、結果としてそのやり方を一度も使いませんでした。
翌1988年の2代目CL11V/CM11Vも、頂点は同じ64PS。転機は1990年のCN21S/CP21Sでした。排気量を550ccから660ccへ広げても、最高出力はそのまま。代わりに中低速のトルクを太くし、このモデルから商用バンではなく乗用車になります。速さを最高出力の数字に足すのではなく、普段使う回転域へ下ろしてきました。
その後も、変わるのは64PSの周りでした。1994年のHA11S/HA21S系では、RS/Zに軽自動車初のオールアルミ製DOHCターボ、K6Aを投入。1998年のHA12S/HA22Sは同じ世代でも中身が違い、HA12SのieはF6A型SOHCターボで60PS、HA22SのRS/ZはK6A型DOHCターボで64PS。後者の2WD・5MTには、VVT、ヘリカルLSD、四輪ABSまで与えられました。エンジンの反応、曲がり方、止まり方。カタログの最高出力だけでは見えない部分を詰めていった時代です。
2000年、その名前はいったん途切れます。
面白いのは、15年後です。2015年のHA36Sが復活にあたって選んだ答えは、初代と同じ「軽さ」でした。最高出力はやはり64PS。そこに2WD・5MTで670kgの車体、専用5速MT、引き締めた足まわり、レカロシートを組み合わせます。パワーアップではなく、64PSを余さず使い切ることでワークスへ戻ったわけです。
HA36Sは2021年の9代目アルトへの交代で姿を消し、現行アルトにワークスはありません。
CA72VからHA36Sまで、5世代。アルトワークスの歴史は、馬力を増やした記録ではなく、同じ64PSからどこまで速さと面白さを引き出せるか試し続けた記録です。





