アバルト595とは
アバルトは、他人が作った実用車に毒を盛る会社です。自分でゼロから車を設計するのではなく、大量に売れている安いモデルを選び、それを別の乗り物へ作り替える。カルロ・アバルトが確立したこの商売は、いまも同じ形で続いています。
素材はフィアット500でした。空冷2気筒をリアに積む、徹底的に安い国民車です。1963年の110D系、595はその排気量を広げ、吸排気と足まわりを仕立て直したモデルでした。同じ車体で、まったく違う乗り物になる。この落差そのものが商品です。
さらに過激にしたのが595 SSであり、1955年から続く110F系の695/695 SSでした。エンジンフードを少し持ち上げて走る、いわゆる開けたままの冷却対策まで含めて、レースの現場から出てきた解決策がそのまま市販車に乗っています。
現代版が始まるのは2008年の312141、アバルト500からです。新型フィアット500に1.4Lのターボを積み、専用の足まわりとブレーキを与える。旧作と同じ手口を、そのまま現代の車体で再演したわけです。
2012年の31214T、アバルト595でその路線が整理されます。グレードごとに出力と装備を積み上げ、レコードモンツァの排気音を筆頭に、「うるさくて速い小さい車」という商品性を明確にしました。2022年の695系では、限定車を重ねながら「500の頂点」を名乗り続けています。
110Dから31214Tまで。アバルトの歴史は、平凡な実用車ほど面白い素材になるという発想が、60年間通用し続けた記録です。






