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ルーテシア R.S./トロフィー – RM5M【EDCが変えたホットハッチの文法】

  • hodzilla51
  • 8分で系譜を理解
ルーテシア R.S./トロフィー – RM5M【EDCが変えたホットハッチの文法】

ホットハッチからマニュアルトランスミッションを奪ったら、何が残るのか。

2013年に登場した4代目ルーテシア R.S.(RM5M型)は、まさにその問いを突きつけた一台でした。ルノー・スポールの歴史において、このモデルほど賛否が割れた世代はそうありません。

ただ、その「なぜ」を掘っていくと、単なる妥協ではない設計思想が見えてきます。

MTを捨てた理由

RM5M型ルーテシア R.S.の最大の話題は、6速EDC(エフィシエント・デュアル・クラッチ)の専用設定でした。マニュアルトランスミッションは用意されていません。

歴代ルーテシア R.S.を愛してきた層にとって、これは衝撃でした。

ただ、ルノー・スポールがMTを切り捨てたのは気まぐれではありません。当時のルノー・スポール責任者パトリス・ラティは、開発の意図について「速さと効率を両立するために最適な手段を選んだ」と明言しています。要するに、タイムを出すならDCTのほうが速い、という判断です。

背景にはもうひとつ、市場の現実がありました。欧州のBセグメント・ホットハッチ市場では、すでにVWポロGTIがDSGを主力に据え、フィエスタSTもパワーシフトを選択肢に入れていた時代です。MT原理主義で売れる台数には限りがある。ルノー・スポールは、走りの部門でありながら、ビジネスとしての生存も考えなければならなかったわけです。

1.6リッター直噴ターボという転換

エンジンも大きく変わりました。先代のRM型(3代目R.S.)が積んでいたのは2.0リッター自然吸気。あの官能的な高回転型ユニットは、ルーテシア R.S.の核とも言える存在でした。RM5M型ではそれが1.6リッター直4直噴ターボに置き換わります。

型式はM5M型、日産との共同開発によるアライアンスエンジンです。最高出力は200ps、最大トルクは240Nm。数値だけ見れば先代の201ps/215Nmからトルクが大幅に増えています。ターボ化によって中回転域のトルクが厚くなり、日常域での扱いやすさは明らかに向上しました。

ただ、ここが評価の分かれ目でもあります。先代の2.0リッターNAは7,100rpmまで回して絞り出す快感があった。RM5M型のターボユニットは実用的だけれど、あの「回す歓び」は薄れています。これは良い悪いではなく、ホットハッチという商品のキャラクターが変わった、ということです。

シャシーの本気度

一方で、足回りの作り込みは歴代屈指と言っていいレベルでした。RM5M型は、ルノー・スポール伝統の独立操舵リアアクスルを採用しません。プラットフォームはルノー・日産のCMF-Bではなくその前世代にあたるもので、リアはトーションビーム式です。

ただし、このトーションビームが「ただの廉価版サス」ではないところがルノー・スポールの面目躍如です。専用チューニングが施され、前後の荷重移動を積極的に使ってノーズを内側に向ける、いわゆる「ハイドロリック・コンプレッション・ストップ」付きのダンパーが奢られています。バンプストップの代わりに油圧式のストッパーを使うことで、ストローク終端の唐突な突き上げを消しつつ、限界域での安定性を確保する仕組みです。

さらに、R.S.ドライブと呼ばれるモード切替システムで、ノーマル/スポーツ/レースの3段階にエンジンレスポンスやESCの介入度合いを変更できます。レースモードではESCが完全にオフになり、ドライバーの意思がそのまま車両の挙動に反映されます。

つまり、MTは無くなったけれど、「走りを組み立てる余地」は残されていた。むしろシャシー側の自由度で勝負する、という設計方針だったと見るのが正確でしょう。

トロフィーという回答

RM5M型の真価が見えたのは、2015年に追加されたトロフィーグレードでした。出力は220psに引き上げられ、トルクも260Nmへ。数値の差は20ps/20Nmですが、体感上の差はそれ以上です。

トロフィーでは足回りがさらに締め上げられ、車高も標準R.S.比で若干下がっています。EDCの制御も見直され、シフトスピードが速くなり、レースモードでのブリッピングもより鋭くなりました。ステアリングのギア比も変更されています。

ニュルブルクリンク北コースでのFF最速タイムを狙う、というルノー・スポールの伝統的なベンチマーク活動も、このトロフィーをベースに行われました。結果として、当時のBセグメントFF市販車として極めて速いラップタイムを記録しています。

トロフィーの存在は、「EDCでもここまでやれる」という証明であると同時に、標準のR.S.がやや大人しすぎたことの裏返しでもあります。最初からトロフィー相当の味付けで出していれば、ここまで賛否は割れなかったかもしれません。

日本市場での立ち位置

日本ではルノー・ジャポンが正規輸入を行い、ルーテシア R.S.として販売されました。本国名のクリオではなく、日本独自の「ルーテシア」名が使われるのは従来どおりです。

価格帯は300万円前後からスタートし、トロフィーで330万円台。同時期のスイフトスポーツが約180万円、フィエスタSTが未導入だった日本市場では、直接の国産ライバルは少ない状況でした。むしろ比較対象はVWポロGTIやアバルト595で、「ちょっと値は張るけど走りの質が違う」という立ち位置です。

販売台数は決して多くありませんでしたが、ルノー・スポールのファン層には確実に届いていました。特にトロフィーは入荷のたびに早期完売するケースもあり、分かっている人には刺さるクルマだったのは間違いありません。

系譜の中で何を残したか

RM5M型は、ルーテシア R.S.の歴史の中で最も「過渡期」的なモデルです。NAからターボへ、MTからDCTへ。ふたつの大きな転換を同時にやった結果、従来のファンからは「変わりすぎた」と言われました。

ただ、この世代がなければ次の展開もなかったはずです。後継の5代目ルーテシア世代では、R.S.のスポーツグレード自体がラインナップから外れるという事態になりました。つまりRM5M型は、「従来型ルーテシア R.S.」の最終形態でもあったのです。

ターボとDCTという時代の要請を受け入れつつ、シャシーの作り込みとトロフィーの過激さで「ルノー・スポールらしさ」を守ろうとした。その姿勢は、結果的に正しかったのか間違っていたのか、まだ答えは出ていません。

ただひとつ確かなのは、このクルマが最後の「ちゃんとしたルーテシア R.S.」だったということです。そう思うと、EDCだろうがターボだろうが、走らせておくべき一台だったのかもしれません。

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