プリウス – MXWH60エコカーの代名詞が選んだ、走りという回答

小鍛治康人(やすと)約8分

プリウスという名前には、もう説明がいらないほどの知名度があります。

ハイブリッドカーの代名詞であり、エコカーの象徴であり、トヨタの環境戦略そのもの。ただ、その「わかりやすすぎるイメージ」が、いつしかこの車を縛り始めていました。

2023年に登場した5代目・MXWH60型プリウスは、その呪縛を自ら解きにいったモデルです。

「もう一度愛される車に」という出発点

プリウス – ZVW50【「もう燃費だけの車じゃない」と言いたかった4代目】

TNGAプラットフォーム第1号として登場した4代目プリウスZVW50。燃費だけでなく走りと骨格から変えようとしたトヨタの意志と、その結果を読み解きます。

5代目プリウスの開発を語るうえで避けて通れないのが、先代・50系プリウスの苦戦です。

4代目は燃費性能で世界最高水準を達成しましたが、販売は右肩下がりでした。原因ははっきりしていて、プリウスを選ぶ理由が「燃費」しか残っていなかったからです。

ヤリスやアクア、さらにはカローラにまでハイブリッドが行き渡った結果、「燃費がいいハイブリッド」はもうプリウスの専売特許ではなくなっていました。

つまり、プリウスは自分自身が育てた市場に飲み込まれかけていたわけです。

トヨタの開発陣がこの状況をどう受け止めたか。

チーフエンジニアの大矢賢樹氏は「一目惚れしてもらえるクルマにしたい」と繰り返し語っています。燃費ではなく、まず見た目と走りで欲しいと思わせる。その上でハイブリッドであること。順番を完全にひっくり返す、という宣言でした。

デザインで空気を変えた

プリウス – ZVW30【プリウスが街に溢れた原因】

3代目プリウスZVW30は、ハイブリッド車を特別な存在から日常の選択肢へと変えた一台。200万円台前半の価格設定と圧倒的な燃費性能で、日本の自動車史に残る大ヒットを記録しました。

MXWH60型を初めて見たとき、多くの人が「これがプリウスなのか」と驚いたはずです。低く構えたノーズ、大胆に寝かされたAピラー、リアに向かって流れるクーペライクなルーフライン。歴代プリウスが守ってきた「ワンモーションフォルム」の文法は残しつつも、印象はまるで別の車です。

ポイントは、このデザインが単なる見た目の冒険ではないことです。第2世代TNGAプラットフォーム(GA-C)の採用で、先代より50mm下がった車高と15mm延びたホイールベースを実現しています。つまり、低く長くなったプロポーション自体が構造に裏打ちされたものであり、デザイナーの気まぐれではありません。

ただし、このスタイリングにはトレードオフもあります。後席の頭上空間は明らかに狭くなり、後方視界も先代より制約されました。ファミリーカーとしての万能性を一部手放した、という見方は否定できません。トヨタはそれを承知の上で、「選ばれる理由」を優先したわけです。

2.0Lハイブリッドという新しい軸

プリウス – NHW20【ハイブリッドが「普通のクルマ」になった瞬間】

2代目プリウスNHW20は、初代の実験的存在から脱却し、ハイブリッド車を「誰もが選べるクルマ」に変えた転換点。THSIIの搭載とパッケージングの刷新が持つ意味を読み解きます。

パワートレインの刷新も、5代目の核心です。MXWH60型が搭載するのは、新開発の2.0L直列4気筒ダイナミックフォースエンジン(M20A-FXS)にモーターを組み合わせた第5世代ハイブリッドシステム。プリウスといえば1.5Lか1.8Lという常識を、ここで初めて破りました。

システム総出力は196ps。先代の1.8Lハイブリッドが122psだったことを考えると、約6割増という大幅なパワーアップです。この数字が意味するのは、「燃費を稼ぐためのハイブリッド」から「走りの質を上げるためのハイブリッド」への転換です。

もちろん1.8Lの設定(MXWH65型)も残されていますが、トヨタが推したのは明らかに2.0L。PHEVモデル(MXWH61型)に至ってはシステム出力223psに達します。プリウスが「速い」と言われる日が来るとは、初代を知る世代には隔世の感があるでしょう。

一方で、WLTCモード燃費は2.0Lモデルで28.6km/L(2WD)。先代1.8Lの32.1km/Lからは下がっています。ただ、ここは冷静に見る必要があります。排気量を上げて出力を6割増やしながら、燃費の低下は1割程度に抑えている。これはハイブリッド技術の底上げがなければ成り立たない数字です。

走りの質は本当に変わったのか

プリウス – NHW10【量産ハイブリッドという無謀を最初にやった車】

1997年登場の初代プリウスNHW10は、世界初の量産ハイブリッド乗用車。なぜトヨタはこの時期に「無謀」とも言える挑戦に踏み切ったのか。開発の背景と技術的意味を読み解きます。

スペック上の変化は明確ですが、問題は実際に走らせたときの印象です。結論から言えば、MXWH60型のドライブフィールは歴代プリウスとは明らかに別物です。

低重心化されたボディ、ワイドトレッド化された足まわり、そして剛性が大幅に上がったプラットフォーム。これらが組み合わさることで、コーナーでの安定感と応答性が先代とは比較にならないほど向上しています。アクセルを踏んだときの加速の厚みも、2.0Lエンジンの恩恵がはっきり出ています。

乗り心地については評価が分かれるところです。19インチタイヤを履く上位グレードでは路面の粗さを拾いやすく、プリウスに「快適な移動手段」を求めていた層には硬く感じられる場面もあります。ここは走りの質感とのトレードオフであり、グレード選びで調整できる部分でもあります。

なぜこのタイミングだったのか

ヴェルファイア – 40系【アルファードの影を抜け出した、攻めの再定義】

2023年登場の40系ヴェルファイアは、先代までの「アルファードの兄弟車」という立ち位置を脱し、よりアグレッシブで独自の存在意義を打ち出した一台です。その背景と狙いを読み解きます。

5代目プリウスの大転換には、もうひとつ大きな文脈があります。それはBEV(バッテリーEV)時代の到来です。

世界中の自動車メーカーがEVシフトを宣言し、ハイブリッド車の存在意義が問われ始めた2020年代前半。このまま「燃費のいいエコカー」を続けていたら、プリウスはEVの踏み台として静かに役目を終えていたかもしれません。

トヨタが選んだのは、ハイブリッドの価値を「燃費」から「走りの楽しさと環境性能の両立」へ再定義することでした。EVがまだ航続距離やインフラの課題を抱えるなかで、ハイブリッドにしかできない軽さと航続距離の余裕を活かしつつ、「欲しいと思えるクルマ」として存在感を示す。これは生存戦略であると同時に、ハイブリッド技術への自信の表明でもあります。

プリウスが残したもの、プリウスが変えたもの

アルファード – 40系【高級ミニバンが高級車そのものになった世代】

2023年登場の40系アルファードは、ミニバンの枠を超え「高級車そのもの」として再定義された世代。なぜトヨタはここまで振り切れたのか、その背景と意味を読み解きます。

初代NHW10から数えて約28年。プリウスは「ハイブリッドという技術を世に問う実験車」から始まり、「誰もが知るエコカーの代名詞」を経て、5代目でついに「走りたくなるハイブリッド」へと変貌しました。

この変化は単なるモデルチェンジではなく、プリウスというブランドの再発明です。燃費で選ばれるのではなく、デザインと走りで選ばれた上で、ハイブリッドであることが付加価値になる。その順番の逆転こそが、MXWH60型の最大の意義です。

もちろん、この路線が正解だったかどうかは時間が証明するしかありません。後席の実用性を気にする声もあれば、プリウスらしさとは何かという議論も続いています。ただ、ひとつだけ確かなことがあります。

5代目プリウスは、「エコだから仕方なく乗る車」という空気を、自分の手で終わらせにいきました。

それだけで、このモデルには語る価値があります。

プリウスの系譜

小鍛治康人(やすと)

 

プリウス – MXWH60【エコカーの代名詞が選んだ、走りという回答】

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