WRX STIが生産終了したあと、スバルのスポーツセダンはどこへ向かうのか。
その問いに対する現時点での回答が、2021年に登場した新型WRX S4、型式VBHです。
先代のVAG型から数えて約7年ぶりのフルモデルチェンジ。
ただし今回は、かつてのように「STIが本命、S4はその下」という構図ではありません。
S4こそが、スバルのスポーツセダンそのものになった世代です。
STIセダンが消えた時代に生まれた
VBH型WRX S4を語るうえで避けて通れないのが、EJ20ターボ搭載のWRX STI(VAB)が2019年末で生産終了したという事実です。
長年スバルのフラッグシップスポーツを担ってきたSTIセダンは、排ガス規制と衝突安全基準の強化により、あの形のまま存続することが難しくなりました。
つまりVBH型S4は、「STIの代わり」ではなく、「STIが存在しない前提で設計されたスポーツセダン」です。この違いは大きい。
先代VA系ではSTIとS4が並立していたため、S4はどうしても「CVTのほう」「大人しいほう」という位置づけで見られがちでした。
しかし今回は、S4がスバルのスポーツセダンの頂点をひとりで担う必要があったわけです。
2.4Lターボという選択
VBH型の心臓部は、FA24型2.4L水平対向4気筒直噴ターボ。最高出力275PS、最大トルク375Nm。
先代S4のFA20型(300PS)と比べると出力はわずかに下がっていますが、排気量アップによってトルクは大幅に太くなっています。ピーク値だけでなく、低中回転域の扱いやすさが明確に変わりました。
なぜFA24なのか。これはレヴォーグやアウトバックにも搭載されるユニットで、スバルが「次世代の主力パワートレイン」として開発したエンジンです。EJ20のような高回転型の官能性よりも、日常域からしっかりトルクが出て、燃費と排ガス性能を両立できることが重視されました。時代の要請に対して、スバルなりに最大限スポーティな落としどころを探った結果がこのエンジンです。
トランスミッションはスバルパフォーマンストランスミッション(SPT)と呼ばれるCVT。マニュアルの設定はありません。ここに不満を感じる人がいるのは当然ですが、スバルとしてはアイサイトとの統合制御を前提にした設計であり、MTを残すという選択肢はかなり早い段階で消えていたようです。ただし8段のマニュアルモード付きで、レスポンスは先代より確実に改善されています。
SGPフルインナーフレーム構造の意味
プラットフォームはスバルグローバルプラットフォーム(SGP)のフルインナーフレーム構造。これはレヴォーグ(VN5)で初採用された手法で、ボディの接合工程を見直すことでねじり剛性を大幅に向上させたものです。
具体的には、骨格をすべて組み上げてから外板パネルを被せるという工程に変更しています。従来はパネルを先に組み付けてから補強するため、構造体としての一体感に限界がありました。フルインナーフレーム化により、同じ車重でもボディ剛性が段違いに上がっています。
これがなぜ重要かというと、サスペンションの仕事が正確になるからです。ボディがたわまなければ、ダンパーやスプリングが設計通りに動く。結果として、乗り心地とハンドリングの両立がしやすくなる。VBH型S4の走りの評価が高いのは、エンジンやAWDの話だけではなく、この器の進化が大きく効いています。
アイサイトXとの統合
VBH型S4は、スバルのスポーツセダンとしては初めてアイサイトXを全車標準装備しました。高精度マップとGPS、準天頂衛星の情報を使った高度運転支援機能です。渋滞時のハンズオフ走行や、カーブ前の減速制御などが含まれます。
スポーツモデルに先進安全装備をフル装備するというのは、一見すると矛盾しているように思えるかもしれません。しかしスバルの考え方は明確で、「速さと安全は対立しない」という立場を取っています。むしろ日常の移動でストレスを減らすことで、走りを楽しむ場面に集中できるようにするという発想です。
実際、アイサイトXの制御はかなり自然で、スポーツ走行を邪魔するような介入はほとんどありません。高速巡航の快適性が上がった分、長距離を走ったあとの疲労感は先代とは比較にならないほど軽減されています。
デザインの賛否と、その裏側
VBH型で議論を呼んだのが、あの樹脂フェンダーを含む外装デザインです。フェンダーアーチ周辺にブラックの樹脂パーツが貼られたスタイリングは、発表直後からSNSを中心に賛否が割れました。
ただ、これには理由があります。まず歩行者保護の衝突安全基準への対応。フェンダー部の変形ストロークを確保するために、金属ではなく樹脂を使う合理性がありました。加えて、北米市場で人気のクロスオーバー的なタフさを演出する意図もあったとされています。WRXは北米がメイン市場であり、日本専用のデザインにはできないという事情があるわけです。
好き嫌いは分かれて当然ですが、「なぜこうなったか」を知ると、単なるデザインの好みの問題ではなく、規制と市場の力学が見えてきます。
STIスポーツRという上位グレード
VBH型S4のラインナップで注目すべきは、最上位グレードのSTI Sport R EXです。STIがチューニングに関与した電子制御ダンパー(ZF製)を採用し、ドライブモードセレクトによってダンパー減衰力、パワステ特性、AWDトルク配分、CVT制御を統合的に切り替えられます。
これは単にSTIのバッジを貼っただけではなく、足まわりのセッティングにSTIのノウハウが入っている点が重要です。コンフォートからスポーツ+まで、走りの幅がかなり広い。日常使いでは穏やかに、ワインディングでは引き締まった動きを見せるという二面性は、このグレードの存在意義そのものです。
スバルのスポーツセダンが向かう先
VBH型WRX S4は、かつてのインプレッサWRXやSTIのような「尖った武闘派」ではありません。
CVTしかない、樹脂フェンダーがある、STIセダンは出ない。そうした事実だけを並べると、スポーツカーとしての純度は下がったように見えるかもしれません。
しかし視点を変えれば、2020年代に水平対向ターボ+フルタイムAWDの新型スポーツセダンを出せるメーカーが、世界にどれだけあるかという話です。
電動化の波の中で、このパッケージを新規開発して市販したこと自体が、スバルの意地であり賭けでもあります。
VBH型S4は、「STIの代替品」として見ると物足りなさが残るかもしれません。
でも「スバルが2020年代にスポーツセダンを続けるために、何を残し何を変えたか」という視点で見ると、このクルマの設計思想はかなり明快です。
速さだけでなく、毎日乗れるスポーツセダンとしての完成度を上げること。
それがVBH型の存在意義であり、スバルが出した現時点での答えなのです。
