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718 ケイマン – 982【4気筒になって怒られた、けれど速かった】

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718 ケイマン – 982【4気筒になって怒られた、けれど速かった】

ポルシェが「718」という数字を引っ張り出してきたとき、多くのファンは歓迎よりも先に身構えました。

なぜなら、それは6気筒エンジンとの別れを意味していたからです。

2016年に登場した718ケイマン(982型)は、ポルシェのミッドシップスポーツが初めて水平対向4気筒ターボを搭載したモデルでした。

結果として、このクルマは「音が悪い」と叩かれ、「でも速い」と認められるという、なかなか複雑な評価を背負うことになります。

なぜ「718」を名乗ったのか

まず名前の話から始めましょう。

718という数字は、1950年代後半から60年代にかけてレースで活躍したポルシェ718 RSKに由来します。あのクルマは4気筒エンジンのミッドシップレーサーでした。

つまりポルシェは、4気筒ミッドシップという構成に「ちゃんと血統がある」と主張したかったわけです。

ただ、これは同時に防御線でもありました。

先代の981型ケイマンが積んでいた自然吸気の水平対向6気筒は、多くのドライバーにとって「ポルシェらしさ」の核心でした。

それを4気筒ターボに置き換えるのだから、ヘリテージの力を借りたくなるのは当然です。

名前ひとつとっても、982型がどれだけセンシティブな立場で生まれたかがわかります。

ダウンサイジングの必然

4気筒化の最大の理由は、端的に言えば排ガス規制です。

2010年代半ば、欧州を中心にCO2排出規制は年々厳しくなっていました。ポルシェだけの話ではなく、フォルクスワーゲングループ全体として、排出量の平均値を下げなければならないという事情がありました。

911(991型)も同時期にターボ化されましたが、あちらは6気筒を維持しています。

つまりポルシェは、ラインナップ全体のバランスを取るために、ケイマンとボクスターで4気筒を引き受けさせたわけです。これはある意味、ケイマンが「911の下」というヒエラルキーの中で生きていることの証でもあります。

もうひとつ見逃せないのは、911との差別化という長年のテーマです。981型の後期には「ケイマンの方が911より運転が楽しい」という声がかなり大きくなっていました。エンジンの気筒数を変えることは、商品としての序列を明確にする効果もあったはずです。ポルシェがそれを公式に認めることはありませんが、結果としてそう機能していたのは確かです。

エンジンの実力と、失われたもの

982型に搭載されたのは、2.0リッター水平対向4気筒ターボ(標準モデル、300PS)と、2.5リッター水平対向4気筒ターボ(S、350PS)の2種類です。先代981型のケイマンが2.7リッターNA・275PS、ケイマンSが3.4リッターNA・325PSだったので、数値上はどちらも明確にパワーアップしています。

特にSの2.5リッターユニットは、可変タービンジオメトリー(VTG)を採用していました。これはそれまでポルシェでは911ターボにしか使われていなかった技術です。ガソリンエンジンでVTGを量産車に使える技術力は、当時としてもかなりのものでした。レスポンスの良さとトルクの太さを両立させるための、本気の仕事です。

0-100km/h加速は、ケイマンSのPDK仕様で4.2秒。先代比で0.3秒の短縮です。トルクは中回転域で大幅に増えており、日常的な速さという意味では明らかに進化しています。数字だけ見れば、文句のつけようがありません。

ただ、問題はでした。先代の水平対向6気筒が奏でていた、高回転に向かって澄んでいくあの排気音は、4気筒ターボでは再現できません。代わりに聞こえてくるのは、やや太く、こもったような音色です。速さに不満はなくても、感覚的な喜びが減ったと感じた人は少なくありませんでした。自動車メディアのレビューでも、この点はほぼ例外なく指摘されています。

シャシーは歴代最高だった

エンジンの議論に隠れがちですが、982型のシャシーは極めて高い完成度を持っていました。基本骨格は981型からのキャリーオーバーですが、サスペンションのセッティングは全面的に見直されています。電動パワーステアリングの制御も改善され、先代で一部のドライバーが感じていた「手応えの薄さ」はかなり改善されました。

ミッドシップレイアウトの美点は、982型でも健在です。フロントに重いエンジンがないため、ノーズの入りが軽く、コーナリング中の姿勢変化が穏やかで読みやすい。ポルシェ自身が「ピュアなドライビングマシン」と形容していましたが、これは誇張ではありません。

さらに見逃せないのが、6速マニュアルトランスミッションの存在です。2016年という時点で、ミッドシップスポーツにMTを標準設定し続けていたこと自体が貴重でした。PDKの完成度は言うまでもありませんが、MTで乗ったときの一体感こそ、ケイマンの本領だったと言えます。

GTS 4.0と6気筒の復活

982型の物語で最も劇的だったのは、2020年に追加された718 ケイマン GTS 4.0の登場です。このモデルには、4.0リッター水平対向6気筒の自然吸気エンジンが搭載されました。最高出力400PS、レッドゾーンは7,800回転。GT4用ユニットをデチューンしたものですが、それでも十分すぎるスペックです。

これは事実上、ポルシェが「4気筒だけではケイマンの魅力を完全には表現できなかった」と認めたようなものでした。もちろん公式にはそうは言いません。しかし、GTS 4.0の登場後、718ケイマンの評価は明確に上向きました。「これこそ本来あるべき姿だ」という声が多かったのは事実です。

GT4とGT4 RSも982型世代の重要なバリエーションです。特にGT4 RSは、911 GT3用の4.0リッター水平対向6気筒を搭載し、500PSを発揮するという、ケイマン史上最も過激なモデルでした。9,000回転まで回るこのエンジンをミッドシップに積むという構成は、もはや「911の下」という位置づけを超えた存在感を持っていました。

982型が残したもの

718ケイマン(982型)は、ポルシェにとって実験であり、試練であり、結果的には再発見の世代でした。4気筒ターボへの移行は規制対応として合理的でしたが、ブランドの感性的価値をどこまで数値で置き換えられるかという問いを突きつけました。

そしてポルシェ自身がその問いに対して出した答えが、GTS 4.0やGT4 RSという6気筒モデルの追加だったわけです。つまり982型は、一度失ってみて初めて「6気筒の自然吸気がケイマンにとって何だったか」を証明した世代でもあります。

後継モデルは電動化の方向に進むと見られています。982型は、内燃機関のミッドシップ・ポルシェとしては最後の世代になる可能性が高い。そう考えると、4気筒で始まり6気筒で締めくくられたこの世代は、ポルシェのスポーツカー史における重要な転換点として記憶されるはずです。

エンジンの音で怒られ、シャシーの良さで黙らせ、最後に6気筒を取り戻して拍手を浴びた。

982型ケイマンの物語は、スポーツカーにとって「正しさ」と「気持ちよさ」がいかに別の話であるかを教えてくれます。

ケイマンの系譜

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小鍛治康人(やすと)

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hodzilla51

クルマの系譜を追ってたら、いつの間にかサイトになっていました

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