「PSと新色」の裏で起きていた、もっと根の深い変更
マツダがND型ロードスター(海外名: MX-5ミアータ)に手を入れました。日本では新たに「Pure Sport(PS)」特別仕様が設定され、新色のジンクグリーンメタリックも話題です。ただ、系譜の視点で見るべきは華やかな特別仕様のほうではありません。今回の改良の主役は、もっと地味で、しかし重要な「静音化」です。
マツダはロードスターに、より静かなタイヤと大型化したサイレンサー、そして吸気系の変更を施しました。理由はシンプルで、こうしないと日本で売り続けられなくなるからです。要するに、マツダが「もっと良くしたい」と思って動いたのではなく、「動かざるを得なかった」改良なのです。
引き金は日本のフェーズ3騒音規制
背景にあるのが、国際基準であるUN Regulation No.51(R51-03)に整合した日本の自動車騒音規制「フェーズ3」です。新規認可モデルには2024年10月から適用されていましたが、来月(7月)からは既存モデルにも拡大されます。つまりNDのような長寿モデルも、ここで対応しなければ7月以降は販売できなくなる、というタイミングだったわけです。
規制値の推移を並べると、その厳しさがよく分かります。フェーズ1は72〜75dB、フェーズ2は70〜74dB、そしてフェーズ3は68〜72dB。許容される音量は段階的に下げられ、車両のパワーウェイトレシオに応じて上限が決まる仕組みです。スポーツカーにとっては、決して優しくない方向への締め付けです。
「小さなトランク」がさらに削られた理由
この規制対応が、ロードスターのパッケージングに実害を及ぼした点も見逃せません。リトラクタブルハードトップ(RF系)では、大型化したサイレンサーがスペースを圧迫し、ただでさえ小さいトランクの奥行きをさらに削ることになったのです。排気音を法規内に収めるための物理的なしわ寄せが、そのまま積載性に出てしまった格好です。エンジニアリングの世界では、騒音という一つの制約が、こうして他の美点を静かに削っていきます。
NDは四代目として登場し、すでに登場から12年近く。その長い生涯のなかで何度も技術改良と特別仕様を重ねてきましたが、終盤になってもこうした「守りの改良」を強いられているわけです。1989年のNA以来、ロードスターは累計126万台以上を売り上げ、小さくて軽い後輪駆動スポーツという立ち位置で文字どおり唯一の存在であり続けています。そのロードスターの系譜を振り返ると、今回の静音化は「規制がスポーツカーの素性に手を入れた」一つの記録として残るはずです。
そして登場した「Pure Sport」
規制対応と並行する形で、日本向けロードスターには新たにPure Sport(PS)特別仕様が設定されました。搭載エンジンは1.5リッターの小排気量ユニット。グレーのファブリックルーフに新色ジンクグリーンメタリックを組み合わせ、ブラック仕上げの16インチRays製ホイールを履きます。
足まわりとブレーキも見どころで、ブレンボ製ブレーキ(シルバーキャリパー)にビルシュタイン製ダンパーが標準装備されます。内装の変更は控えめで、スエード調ファブリックシート、スタート/ストップボタンや空調ダイヤルのブラックリング、エアベント外周のグロスブラック仕上げといった具合です。長い年月を経てなお、ロードスターのキャビンは(体さえ収まれば)完成に近い、というのが正直なところです。
ニッチでも逃れられない、規制という現実
マツダは次期ロードスターの開発が順調に進んでいることを明言しており、「クルマのDNAを守る」「2,200ポンド(約1トン)未満に抑える」といった目標を掲げています。それでも今回の一件は、ニッチなライトウェイトスポーツであっても、年々厳しくなる規制から逃れられないことを改めて突きつけました。
自動車メーカーが直面するハードルの多くは排ガス規制ですが、騒音という軸もまた、新型開発や既存モデルの延命に別レイヤーの複雑さを加えます。なぜ今ロードスターが静かになったのか──その答えは、走りの哲学ではなく一枚の法規にありました。それでもロードスターは生き残った。系譜が途切れなかったことを、まずは素直に喜びたいところです。
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hodzilla51
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