コペン GR SPORT – LA400A【トヨタの手が入った軽オープンの異色モデル】

  • hodzilla51
  • 8分で系譜を理解
コペン GR SPORT – LA400A【トヨタの手が入った軽オープンの異色モデル】

軽自動車のオープンスポーツに、トヨタのスポーツブランドが手を入れる。冷静に考えると、かなり不思議な話です。

コペン GR SPORTは、ダイハツの2代目コペン(LA400K/LA400A)をベースに、GAZOO Racingの知見で走りを仕立て直したモデル。

2019年に登場したこの車は、単なるエンブレム替えではなく、「軽規格の中でどこまで走りの質を上げられるか」という実験的な問いに対する、ひとつの回答でした。

なぜコペンにGRが必要だったのか

そもそもコペンは、ダイハツが独自に企画・開発した軽オープンスポーツです。

2002年の初代(L880K)で確立した「電動開閉式ルーフを持つ軽2シーター」というコンセプトは、2014年登場の2代目(LA400K)にも受け継がれました。

660ccターボにCVT、あるいは5速MT。十分に楽しい車として市場には受け入れられていました。

ただ、2代目コペンには構造上のある特徴がありました。「D-Frame」と呼ばれる骨格構造と、外板パネルを着せ替えできる「DRESS-FORMATION」という仕組みです。

ボディ外板を樹脂化し、骨格とは別に交換できるようにした。これは商品企画としては画期的でしたが、走りの面では剛性確保にかなりの工夫が必要でした。

つまり、コペンの2代目は「着せ替えの自由度」と「オープンボディの剛性」という、相反する要素を両立させなければならなかった。その中で走りの質をさらに上げるには、車体側の補強やサスペンションチューニングに相当な作り込みが要る。

ここに、GAZOO Racingが入り込む余地があったわけです。

トヨタとダイハツの共同開発という構図

コペン GR SPORTの開発は、トヨタのGAZOO Racing Companyとダイハツの共同作業として進められました。

型式はLA400Aとなり、ベースのLA400Kとは区別されています。これは単なるグレード追加ではなく、型式が変わるレベルの変更が入ったことを意味します。

具体的に何が変わったのか。まずボディ補強です。フロントにブレースを追加し、車体のねじり剛性を高めています。オープンカーにとって剛性は走りの根幹に関わる部分で、ここを触ることで操舵応答やリアの追従性が変わります。さらに専用チューニングのサスペンション、MOMO製の本革ステアリング、BBS製の鍛造アルミホイールといった装備が奢られました。

注目すべきは、これらの変更が「見た目の豪華さ」ではなく「走りの基本骨格」に集中していた点です。GRの名を冠するモデルとして、エアロパーツを派手に盛るのではなく、ボディとサスという根本を詰めにいった。このアプローチは、GR SPORTというグレードの性格をよく表しています。

GR SPORTの立ち位置を理解する

トヨタのGRシリーズには、段階があります。市販車に近い「GR SPORT」、本格的にスポーツ走行を想定した「GR」、そしてさらにその上の「GRMN」。コペンに与えられたのはGR SPORTで、これは「日常使いの延長線上で走りの質を高める」というポジションです。

ここが面白いところで、コペンというベース車自体がすでにスポーツカーの文脈にある車なんです。つまりスポーツカーに対してさらにスポーツグレードを設定するという、ちょっと入れ子構造のような状態になっている。

普通のコペンでも十分に楽しいのに、そこからさらに何を足すのか。その答えが「剛性と足回りの質」だったのは、ある意味で正解だったと思います。

派手なパワーアップはありません。エンジンは同じKF型660ccターボで、64馬力の軽自動車自主規制枠はそのまま。CVTと5速MTの選択肢も変わりません。

変わったのは、同じパワーをどう路面に伝えるか、ドライバーにどう伝えるか、という部分です。

走りの変化はどこに出たか

実際にGR SPORTに乗ると、まず感じるのはステアリングの手応えの変化です。ベースモデルと比べて、操舵初期の曖昧さが減っている。

これはボディ剛性の向上が直接的に効いている部分で、ステアリングを切った瞬間に車体がたわむ量が減ることで、タイヤの動きがより正確にドライバーに返ってくるようになります。

足回りも硬くなっていますが、単純にバネレートを上げただけではなく、減衰力のセッティングも見直されています。

結果として、路面の凹凸を拾いはするものの、不快な突き上げにはなりにくい。軽自動車の短いホイールベースでこのバランスを出すのは、かなり手間がかかる作業です。

BBS鍛造ホイールの採用も、見た目だけの話ではありません。バネ下重量の軽減は、軽自動車のような軽い車体ではとくに効果が大きい。車重が自分自身で800kg台後半という世界ですから、ホイール1本あたり数百グラムの差が、乗り味に出てきます。

軽スポーツにGRを載せる意味

ここで少し引いた目で見てみます。トヨタがGRブランドを軽自動車に展開した意味は何だったのか。

ひとつは、GRブランドの裾野を広げるという商品戦略です。86やスープラだけでは届かない層に、GRの世界観を体験してもらう。価格帯としても200万円台前半からという設定は、スポーツカーとしては現実的なラインです。

もうひとつは、ダイハツとトヨタの関係性の中での意味です。2016年にダイハツはトヨタの完全子会社になっています。コペン GR SPORTは、その関係が具体的なプロダクトとして形になった初期の事例のひとつでした。ダイハツの軽自動車づくりのノウハウと、トヨタのスポーツ開発の知見を掛け合わせるという実験。その成果が、このLA400Aに詰まっています。

ただ、課題がなかったわけではありません。CVTモデルでは、せっかくの足回りの良さをトランスミッションのダイレクト感の薄さが打ち消してしまう場面もありました。MTを選べばかなり楽しいけれど、CVTだとGR SPORTの真価が伝わりにくい。この点は、軽自動車の市場特性——AT比率が圧倒的に高い——との兼ね合いで、難しい判断だったはずです。

コペンの系譜が示すもの

初代コペンは「ダイハツが本気で作った軽オープン」でした。2代目は「着せ替えという新しい価値提案」を加えた。

そしてGR SPORTは「トヨタとの協業で走りの質を一段上げた」モデルです。系譜として見ると、コペンは世代ごとに異なるテーマを背負ってきたことがわかります。

2024年にはダイハツの認証不正問題の影響でコペンの生産が一時停止するなど、この車種の将来は不透明な部分もあります。ただ、GR SPORTという形で「軽自動車でもここまでできる」と示したことの意味は小さくありません。

コペン GR SPORTは、軽自動車という制約の中で走りの質を追求するとどうなるか、という問いに対する真面目な回答でした。派手さはないけれど、触れば違いがわかる。

そういう車が、軽規格の中にちゃんと存在していたこと自体が、日本の自動車文化のひとつの豊かさを表しています。

コペンの系譜

この車種系譜を共有

小鍛治康人(やすと)

この記事を書いた人

hodzilla51

クルマの系譜を追ってたら、いつの間にかサイトになっていました

関連車種