インテグラという名前が帰ってきた。ただし、帰ってきた場所は日本ではなく北米で、ブランドはホンダではなくアキュラだった。
そしてそのトップグレードである「タイプS」は、かつての「タイプR」とは名乗っていない。この時点で、もう話はだいぶ複雑です。
2022年に登場した新型アキュラ・インテグラ、そして2024年に追加されたタイプS。これは単なるリバイバルではなく、ホンダの北米戦略とスポーツカーの再定義が交差した、かなり意図的なプロダクトです。
懐かしさだけでは語れないし、スペックだけ見ても本質は見えてこない。
なぜこの車は「インテグラ」を名乗り、なぜ「タイプR」ではなく「タイプS」だったのか。そこを掘ってみます。
なぜ今、インテグラだったのか
インテグラという車名がアキュラのラインナップから消えたのは2006年のことです。北米ではRSXという名前に変わり、それも一代で終了。以降、アキュラのコンパクトスポーツセダン枠は長らく空席のままでした。
一方で、アキュラというブランド自体がこの間ずっと苦しんでいた。TLXやRDXといった主力モデルはあるものの、レクサスやBMWに比べてブランドの輪郭がぼやけていた。「ホンダの高級版」という以上の意味を持てていなかったわけです。
そこでアキュラが打った手のひとつが、ブランドの原点回帰でした。インテグラという名前は、北米のホンダファン・アキュラファンにとって特別な響きを持っている。DC2タイプRは今でもカルト的な人気がありますし、「アキュラといえばインテグラ」という記憶は根強い。つまりこの復活は、商品企画であると同時に、ブランディングの一手でもあったわけです。
シビックとの関係をどう読むか
新型インテグラのベースは、11代目シビック(FL型)です。プラットフォームもエンジンも共有している。ベースグレードのインテグラには1.5Lターボが載り、タイプSにはシビックタイプR(FL5)と同じK20C型2.0L VTECターボが搭載されます。最高出力は320ps、最大トルクは420Nm。6速MTのみ。ここだけ見ると、ほぼFL5シビックタイプRそのものです。
ただし、ボディ形状が違います。シビックタイプRが5ドアハッチバックなのに対し、インテグラタイプSは5ドアリフトバック。見た目はセダンに近いが、テールゲートが大きく開くクーペライクなスタイルです。ホイールベースは同一ですが、リアまわりの造形や開口部の設計が異なるため、単なるバッジ違いとは言えない。
とはいえ、「シビックタイプRのアキュラ版でしょ?」という声が出るのは当然です。実際、サスペンションのセッティングやLSD、ブレーキ構成などはFL5と多くを共有しています。ここがこの車の最大の論点であり、同時に最大の面白さでもある。
タイプRではなくタイプSという選択
かつてのインテグラタイプR(DC2、DC5)は、ホンダのタイプRブランドの中核を担う存在でした。特にDC2は、NAのB18C型VTECを高回転まで回し切る快感で、今なお語り継がれる一台です。では、なぜ新型は「タイプR」を名乗らなかったのか。
理由はいくつか考えられます。まず、タイプRはホンダブランドの称号であり、アキュラブランドでは「タイプS」がスポーツグレードの頂点という棲み分けがある。これはTLXタイプSでも同様で、アキュラの文法に従った結果です。
もうひとつ、タイプRという名前には「サーキット最速を目指す」という暗黙の宣言が含まれます。インテグラタイプSは、そこまでストイックな方向には振っていない。内装の質感はシビックタイプRより明らかに上質で、アキュラらしいプレミアム感がある。シートもレカロではなくアキュラ専用品。つまり、速さと快適さのバランスを意図的にタイプRとは変えているのです。
これを「中途半端」と見るか「大人のスポーツセダン」と見るかは、評価が分かれるところです。ただ、少なくともホンダ側は明確に「タイプRとは別の価値軸」を設定しようとしていた。そこは読み取っておくべきでしょう。
走りの実力と、FL5との差分
エンジンは同じK20C、トランスミッションも同じ6速MT、フロントにはヘリカルLSD。ここまで同じなら走りも同じかというと、そう単純ではありません。
まず車重がやや異なります。インテグラタイプSはシビックタイプRより若干重い。リフトバックボディの構造差やアキュラ仕様の装備が効いている。また、サスペンションのチューニングにも微妙な差があり、タイプSのほうがやや快適方向に振られているという報告が多い。
一方で、リアまわりの剛性バランスはリフトバックならではの特性があり、一部のジャーナリストはタイプSのほうがリアの接地感に独特の安定感があると評価しています。つまり、同じパワートレインでもキャラクターは確実に違う。ここを「劣化版」と切り捨てるのはもったいない。
北米のメディアレビューでも、「FL5がサーキットの刃なら、タイプSはワインディングの相棒」という評が目立ちます。日常域での扱いやすさ、内装の満足度、そして何よりディーラーでの入手性(シビックタイプRは北米でもプレミア価格がついていた)を含めて考えると、タイプSの存在意義は明確です。
日本不在という事実
この車について語るとき、避けて通れないのが日本市場への未導入という事実です。インテグラという名前は日本で生まれ、日本で育ったのに、復活の舞台は北米だった。これは多くの日本のファンにとって複雑な感情を呼ぶ話です。
ただ、冷静に見れば理由は明白です。アキュラは北米専用ブランドであり、日本にはディーラー網がない。そしてFL5シビックタイプRが日本で正規販売されている以上、ほぼ同じパワートレインのインテグラタイプSを日本に持ってくる商品企画上の合理性は薄い。
つまり、インテグラの復活は「グローバルなスポーツカーの復権」ではなく、「アキュラというブランドの再構築」という文脈の中にある。これを理解しないと、この車の評価は的を外します。
名前が背負うものと、新しい意味
DC2インテグラタイプRは、1.8L NAで200psを絞り出し、車重1,060kgの軽量ボディをMTで操る、純度の塊のような車でした。DC5もその延長線上にいた。
それに対して、現代に甦ったタイプSは2.0Lターボで320ps、車重は1,400kgを超える。数字だけ見れば、もはや別の乗り物です。
でも、それは時代が変わったということでもある。
2020年代に1,060kgのスポーツカーを量産車として成立させるのは、安全基準的にも環境規制的にもほぼ不可能です。その中で、MTのみ、LSD付き、320psのスポーツセダンを新車で買えるという事実は、むしろ貴重と言うべきでしょう。
インテグラタイプSは、かつてのタイプRの直系後継ではありません。名前は同じでも、ブランドも市場もキャラクターも違う。ただ、「ホンダの技術でスポーツセダンを本気で作る」という意志は確実に引き継がれている。
20年の空白を経て復活したインテグラは、過去の栄光をそのまま再現するのではなく、今のホンダが出せる最良のスポーツセダンとは何かという問いに対するひとつの回答です。
それがタイプRではなくタイプSだったことも含めて、この車の立ち位置はかなり正直だと思います。
名前の重さに潰されず、かといって名前を軽く扱いもしない。そのバランス感覚こそが、この世代のインテグラの本質ではないでしょうか。
インテグラの系譜


インテグラタイプS – DE5【20年の沈黙を破った名前と、シビックの影】
Honda

この記事を書いた人
hodzilla51
クルマの系譜を追ってたら、いつの間にかサイトになっていました




