ニュース一覧に戻る

マクラーレンW1を実走レビュー、F1→P1に続く3台目の「1」が貫いた後輪駆動という思想

マクラーレンW1を実走レビュー、F1→P1に続く3台目の「1」が貫いた後輪駆動という思想

Source: motor1.com(報道用画像)

3台目の「1」が、ようやく走った

マクラーレンの歴史で「1」を名乗る車は、これまでに2台しかありませんでした。1992年のF1、2013年のP1。そして今回、3台目の「1」=W1が、英Autocarと米Motor1の手で公道とサーキットの両方で実走レビューされました。価格はおよそ200万ポンド(米国では約210万ドル)、システム出力1258bhp。マクラーレン史上もっともパワフルな1台です。

日本語の量産ニュースはたいてい「1258bhp・£2M」のスペック羅列で終わってしまいます。でも、この車のいちばん面白いところはそこではありません。F1→P1→W1という「1」の系譜の中で、W1が何を受け継ぎ、何を頑なに守ったのか。そこにマクラーレンという会社の思想が透けて見えるのです。

「1」という名前が背負ってきたもの

そもそも「1」とは何だったのか。1992年のF1は、いまなお世界最速の自然吸気ロードカーであり続けています。カーボンファイバーのタブにミッドシップ、そして自然吸気V12という構成でした。続くP1は2013年デビュー。フェラーリ・ラフェラーリ、ポルシェ918スパイダーと並んで「ハイパーカーの聖三位一体(Holy Trinity)」と呼ばれた1台で、こちらはハイブリッドのV8でした。

そして今回のW1という名前。Motor1によれば、これはマクラーレンが初めて獲得したF1コンストラクターズ・ワールドチャンピオンへのオマージュだそうです。F1とP1の間に積み上げてきた23ものドライバー/コンストラクターズタイトル、その重みを背負った命名なのです。要するに「1」は、単なる連番ではなく、ブランドの頂点を示す称号として使われてきたわけです。

縦串で見える設計思想 ― V12からハイブリッドV8、そして「軽さ」へ

系譜を縦に串刺しにすると、駆動方式の一貫性が際立ちます。F1、P1と同じく、W1もカーボンタブのミッドシップ。そして3台すべてが後輪駆動のみなのです。

これがどれだけ異例か。Autocarも指摘するように、近年のハイパーカーは四輪駆動がトレンドです。1000bhpを超える出力を2輪だけで受け止めるのは酷で、エンジニアの多くは「これだけのパワーを引き出すには4本のタイヤに配分すべきだ」と考えます。実際、後述するライバルたちもそうしています。

ところがマクラーレンのエンジニアは、そう考えません。Motor1の表現を借りれば、988lb-ftものトルクを後輪だけに送り込む決断の大きさは「いくら強調してもしすぎることはない」。フロントタイヤを駆動から解放することで、操舵に専念させ、より自然なステアリングフィールを生む。そのために、加速の最大化という難題をあえて引き受けているのです。

同じ思想は「軽さ」にも貫かれています。P1はハイブリッドながらプラグインでしたが、W1はあえて外部充電をやめました。理由は明快で、重くなるから。ライバルが重量増を許容してでも機能を盛り込むのとは逆に、マクラーレンは不要な重量を徹底的に削ぎ落としています。後輪駆動のみという選択も、その延長線上にあるわけです。

結果として、W1のドライ重量はメーカー公称で最軽量1399kg。ハイブリッド機構はP1より88ポンド(約40kg)軽く、車両全体のドライ重量はP1よりわずか9ポンド重いだけだとMotor1は伝えています。13年の歳月を挟んでこの数字は、率直に言って見事です。13年でパワーは大きく増えたのに、重さはほぼ据え置き。これこそが「1」の系譜が守ってきた価値観だと言えます。

新しいハイブリッドV8の中身

パワートレインは4.0リッターのツインターボV8にハイブリッドを組み合わせたもの。システム出力1258bhp、トルク988lb-ft。0-60mphは2.0秒フラット、0-124mphは5.8秒、ダウンフォースは2205ポンド、最高速は電子制御で217mphに制限されています。

電動側も凝っています。わずか44ポンド(約20kg)のラジアルフラックス・モーターが342bhpを発生し、電源は1.4kWhという小さなバッテリー。EV走行だけなら1.6マイルほど走れる程度ですが、そもそも長距離をモーターで走ることを目的にしていない構成です。エンジンは最高9200rpm、E-モーターは24000rpmまで回り、8速デュアルクラッチは一瞬だけ2つのギアに同時に駆動力を流せるという凝った設計が盛り込まれています。

Motor1はこれを「高級腕時計グランドセイコー・スプリングドライブの電気機械的な精密さ」になぞらえています。EV単体の速さで勝負するのではなく、ハードウェアとEV技術を高い次元で融合させた、という評価です。さらにステアリングとブレーキは、いまや少数派となった油圧式を堅持。電動パワステやブレーキバイワイヤが当たり前の時代に、フィールを最優先したという選択です。

ムジェロでの実走 ― 速さに「近づきやすさ」が同居する

Autocarのマット・プライアーは、チーフエンジニアのアンディ・ビールからムジェロ・サーキットのガレージで内装を剥がしたW1を見せられたといいます。ムジェロはフェラーリの本拠地マラネロからわずか70マイル。マクラーレンがフェラーリの庭先に乗り込むのは初めてではない、とAutocarはニヤリとしつつもW1の場合は単に時期的なサーキットの都合だろう、とフェアに付け加えています。

構造の作り込みも徹底しています。フロントにはアルミ製のクラッシュストラクチャーがあり、ボディや多数のクーリングラジエーターを支えますが、サスペンションとステアリングラックはカーボンタブに直接マウントされています。Race/Race+モードでは車高が下がり、フロントで37mm、リアで17mmという前後で異なる下げ幅が設定されています。

インテリアにも軽量化思想が現れています。これまでのマクラーレンのロードカーはすべてジヘドラルドア(上開きの跳ね上げ式)を採用してきましたが、W1はドア下面の複雑な空力面が斜めの開閉を妨げるため、通常の固定ヒンジで上方向にスイープする方式に変わりました。シートは固定式で、ステアリングとペダルボックスを自分のほうへ動かして合わせる仕組み。シートレールやモーターの重量と機械的複雑さを省くための割り切りです。Aerocellモノコックのむき出しのカーボンと相まって、運転席からの眺めはロードカーよりレーシングカーに近い、とMotor1は表現しています。

肝心の走りについて、Autocarの評価は「巨大なパワーと(相対的な)軽さの見事な融合」。賞賛されているのは、とてつもない性能でありながら親しみやすさ(approachability)が同居している点、そしてステアリング・ブレーキ・乗り心地がいずれも卓越していること、上質なキャビンです。一方で弱点として、この水準のエンジニアリングは安くはないこと、車幅がかなり広いこと、シートの調整幅に乏しいことが挙げられています。固定シートの割り切りは、機能と引き換えに使い勝手を少し犠牲にしている、ということでしょう。

ライバルとの距離感

価格と性格を考えると、W1の立ち位置は独特です。Motor1によれば、約210万ドルのW1にもっとも近い競合は390万ドルのフェラーリF80。そのほかに100万ドル級のアストンマーティン・ヴァルハラやメルセデスAMG ONEが挙げられます。

面白いのはF80との対比です。F80は3つの電気モーターを積みながら、エンジンは3.0リッターV6。ドライ重量は3362ポンドです。対してW1は3084ポンド。3モーター四駆で武装したフェラーリに対し、マクラーレンはV8と後輪駆動のみ、そして軽さで応える。アプローチの違いがそのまま数字に出ています。要するにW1は、ライバルが選ばなかった道をあえて選んだ「1」なのです。

F1の自然吸気V12、P1のプラグインハイブリッドV8、そしてW1の新世代ハイブリッドV8。パワートレインは時代ごとに変わっても、カーボンタブ・ミッドシップ・後輪駆動・徹底した軽量化という背骨は一度もブレていません。3台目の「1」は、スペックの数字以上に、その一貫性こそが見どころだと言えそうです。

小鍛治康人(やすと)

この記事を書いた人

hodzilla51

クルマの系譜を追っていたら、いつの間にかサイトになっていました