高級グレードからV8が消えた
アメリカで一番売れているトラック、フォードF-150。その最上級グレードからついにV8が姿を消しました。米メディアThe Driveが報じたところによると、F-150のKing RanchとPlatinumのエンジン選択肢は、いまや3.5リッターのEcoBoost V6と、そのハイブリッド版PowerBoostの2種類だけ。フォードの公式コンフィギュレーターでも確認でき、フォードの広報担当者もThe Driveに対し「King RanchとPlatinumでV8はもう提供していない」と認めています。理由までは語らなかったそうですが。
V8が欲しければ、XL、STX、XLT、Lariat、Tremorといった下位〜中位グレードを選ぶしかありません。要するに、いちばん高いモデルからいちばん伝統的なエンジンが外れたわけです。アメリカン・フルサイズの象徴だったV8の立ち位置を考えると、これは小さくない節目だと思います。
「最上級=V8」ではなくなった理由
紙の上のスペックを見ると、フォードの判断はむしろ理にかなっています。5.0リッターV8(コードネーム「Coyote」)の出力は400馬力/410lb-ft。対する3.5リッターEcoBoost V6は同じ400馬力で、トルクは500lb-ftとV8を上回ります。ハイブリッドのPowerBoostに至っては430馬力/578lb-ftです。つまり「高いモデルほど高性能なエンジンを積む」という発想で並べ替えると、もはやV8は最上段にいないのです。
ただ、数字だけでは割り切れないものもあります。大排気量そのものの存在感や、自然吸気エンジン特有のフィールを、絶対的なパワーより重んじる人は確実にいます。第4世代のCoyoteはDOHCの現代的なユニットで「シンプル」とは言い難いのですが、それでも8気筒が生む感覚はターボV6では置き換えにくい。そこにこそ、このニュースの寂しさがあります。
EcoBoostへの置換史と、市場が出した答え
フォードは長らく5.0リッターCoyoteをラインナップに残しつつ、実際にはEcoBoost V6を圧倒的に多く売ってきました。フォード自身がThe Driveに語ったところでは、各エンジンの販売はおおむね均等に割れているとのこと。そして通常のF-150には複数のV6が用意され、V8はひとつだけ。この構成比そのものが、どちらが勝者かを物語っています。
S&Pグローバルのデータも同じ方向を指しています。ハーフトン(半トン級)トラックの新規登録に占めるV8搭載車の割合は、2020年の64.6%から2024年には38%まで落ち込みました。わずか4年での急落です。背景には、エンジンに強いこだわりを持たない買い手が想像以上に多いという現実と、排ガス・燃費規制という長年の圧力(今は以前ほど強くないとはいえ)があります。V8離れが顧客主導なのか規制主導なのかは、簡単には言えません。多くの人が思うより、ずっと込み入った話なのです。
業界全体ではV8回帰の動きも
面白いのは、この流れがフォード一社の判断にとどまり、業界全体は必ずしも一枚岩ではないことです。ラムは一度生産終了したHEMI V8をわずか1年で復活させ、GMは新世代のスモールブロックV8を投入しています。V8を巡る各社の判断はバラバラで、フォードはそのなかでもっとも明確に「V6シフト」を選んだメーカーと言えます。
とはいえ、フォードがV8を捨てたわけではありません。同社はル・マンにハイブリッド化したCoyote V8で参戦すると報じられており、信頼性を理由にこの8気筒を選んでいます。市販トラックの高級グレードからは退いても、Coyoteという血統そのものはまだ生きている。F-150という最量販トラックの頂点でV8が一区切りを迎えた今、5.0リッターがこの先どこまで残るのか。アメリカン・フルサイズの象徴の去就は、しばらく目が離せません。

この記事を書いた人
hodzilla51
クルマの系譜を追っていたら、いつの間にかサイトになっていました
