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フェラーリ12Cilindri Manuale、599以来のゲート式MT復活の正体は“バイワイヤ”

フェラーリ12Cilindri Manuale、599以来のゲート式MT復活の正体は“バイワイヤ”

Source: autocar.co.uk(報道用画像)

フェラーリが、14年ぶりにクラッチペダルを備えたモデルを出しました。「12Cilindri Manuale」です。3ペダルと、あの金属が鳴る有名なゲート式シフター(canceletto)が戻ってくる——これだけで熱狂するファンは世界中にいるはずです。生産はわずか1,499台、価格は59万ユーロ(約50万8,000ポンド/67万5,000ドル)で、通常の12Cilindriより50%も高い設定になっています。

ただ、日本語圏の速報がこぞって打つ「フェラーリ、マニュアル復活」という見出しは、この車のいちばん面白い部分を丸ごと落としています。なぜなら、この12Cilindri Manuale、実は本物のマニュアルトランスミッションを積んでいないからです。

まず、系譜を整理しましょう

クラッチペダルを持つフェラーリ市販車は、カリフォルニア以来。そしてV12でゲート式MTを選べた最後のモデルは、2012年に生産を終えた599 GTBでした。つまりマラネロは、V12+ゲート式MTという組み合わせを、実に十数年ものあいだ自ら封印してきたわけです。

この空白は偶然ではありません。パドル式デュアルクラッチ(DCT)がラップタイムでもドライバビリティでも旧来のMTを上回っていく中で、フェラーリは458以降のミッドシップV8世代でゲート式MTを完全に切り捨て、パドルDCTへ一本化していきました。速さと再現性を突き詰めれば、答えはDCTになる。それがマラネロの結論でした。

退任するコマーシャル責任者のエンリコ・ガリエラ氏は、近年の顧客からの要望で「最も多かったのがマニュアルだった」と明かしています。ただフェラーリは、単に懐かしいだけの機構では動かなかった。「報酬感があるだけでなく、革新的で、妥協のないもの」が用意できるまで待った、というのが彼の説明です。その答えが「Manuale By-Wire」でした。

Manuale By-Wire——シフターとギアボックスは繋がっていない

この車の最大の異端は、シフトレバー/クラッチペダルとリアアクスル上のギアボックスとのあいだに、機械的なリンケージが一切存在しないことです。事実、この車は「オートマチック」としてホモロゲーションを取得しています。

心臓部は、標準12Cilindriが積む8速DCT(The DriveによればベースはSF90ストラダーレ由来)そのもの。ただしフェラーリはここに新しい「頭脳」を載せ、さらに上2段を削り落として実質6速に仕立て直しました。エンジニア曰く、望むキャラクターを出すには6速で十分だった、と。パドルは存在しません。プロジェクトリードのヴァレンティン・マルゲ氏は「DCTは残しつつ、その上にドライバーとの新しいインタラクションの層を築いた」と表現しています。

肝は、クラッチペダルの踏み込み量が、ギアボックス内クラッチパックの締結度合いをそのまま指示する点です。だから、819馬力のV12をなだめすかすように半クラッチで転がすことも、ドリフトを誘発するために乱暴にクラッチを蹴ることもできる。ヘタをすればエンストもする。まさに機械式MTの振る舞いを再現できるわけです。

“欺瞞”ではなく、作り込みで殴ってくる

ここでMotor1が報じたメカニズム詳報が効いてきます。7.7ポンド未満のシフトアッセンブリーは、高強度スチールのビレット削り出し。数年使ってもガタが出ないよう極端に厳しい公差で仕上げられ、ゲートを通る金属棒の“遊び”の感触は、あえて599 GTBを参照して作り込まれています。

あの気持ちいい「カチッ」というクリック感は、プロファイル加工された回転ドラムとプリロード機構が抵抗を溜めて一気に解放することで生まれる、完全にメカニカルな演出です。レバー位置はホール効果センサーが磁界で非接触検知し、電磁ソレノイドがロックアウトとして機能します。クラッチペダルも同様で、プリロードスプリング+カム+ローラーという受動的な機械系が、本物のクラッチの抵抗カーブ(踏み込むと重くなり、ミートポイントで抜ける)を物理的に再現しています。抵抗を電子ではなく機械で作るからこそ、ペダルは瞬時に応答するというわけです。

できること・できないことの線引きも巧妙です。エンストはできる。9,500rpmまで無意味に回すこともできる。ヒール&トゥも決められる。適切なドライブモードならクラッチをつないでのバーンアウトも可能。一方で、6速から1速へ叩き込むような“マネーシフト”は、コンピューターがブロックしてバルブトレインを空へ飛ばさせません。つまり、感情の報酬は残し、機械的な自己破壊だけを禁じる設計です。この考え方は、コーニグセグの「Engage Shift System」に近いとカースクープスは指摘しています。

速さを一切犠牲にしない、という逃げ道

面白いのは、この“中身はオートマ”という構造が、性能面での妥協をゼロにしている点です。BMWが新型M3のMTでトルクを抑えたように、通常マニュアル化は耐久性のために出力を削る場面があります。しかし12Cilindri Manualeは、自然吸気6.5リッターV12が819馬力(830hp表記)/500lb-ft、9,500rpmレッドラインをそのまま維持。0-100km/hは2.9秒、0-200km/hは7.9秒未満、最高速は340km/h超と、標準車と変わりません。ベースがDCTだからこそ成立する“いいとこ取り”です。

要するにこの車は、「本物のクラッチではない」という点で欺瞞と呼ぶこともできれば、「機械式MTの感触を最新技術で再構築し、しかも速さを一切失わなかった」という点で工夫の極致と呼ぶこともできます。どちらの評価も正しく、だからこそ議論を呼ぶ。599以来マラネロが封じてきたゲート式MTの系譜を、彼らは過去の金型を引っ張り出すのではなく、まったく新しいレイヤーとして甦らせました。

視覚面でも1,499台の特別感は徹底されています。センターコンソールには研磨された6速ゲートと丸いアルミのシフトノブ。365 GTB4デイトナを参照したピンストライプ、レーザーエッチングのサイドバッジ、鍛造ホイールなど、全車がTailor Made仕様で二つと同じ個体はありません。実際にハードウェアに触れた海外メディアが「本物のMTと変わらない手応え」と評しているのが、この車のいちばん厄介で、いちばん魅力的なところです。

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小鍛治康人(やすと)

この記事を書いた人

hodzilla51

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