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BMW初のフル電動M3、来年登場。『馬力を追わない』思想転換をM半世紀の系譜で読む

BMW初のフル電動M3、来年登場。『馬力を追わない』思想転換をM半世紀の系譜で読む

Source: motor1.com(報道用画像)

『歴代最強』になるはずのM3が、馬力を主役にしない

BMWが、ブランド初となるフル電動の「M」を来年世に出します。対象はM3。今月ベールを脱いだ「M Concept Neue Klasse(Mコンセプト・ノイエクラッセ)」がその姿をほぼそのまま予告しており、市販版は来年デビュー、発売は2027年とされています。

注目すべきはパワートレインです。4つのモーターを積み、xDrive(四輪駆動)を標準装備。BMW自身がこのクルマを「M3の40年の歴史で最もパワフルなモデルになる可能性が高い」と認めています。M3の系譜は1986年、ホモロゲーション・スペシャルとして生まれた初代E30から始まりました。その頂点に、内燃機関を一切持たないクルマが立つ——これは小さくない事件です。

ただし、ここで多くの量産ニュースが「電動M3=歴代最速」で話を締めてしまうところを、BMSの技術者コメントは別の方向を指しています。

1,341馬力コンセプトを『超えない』と明言した意味

BMWは具体的な出力値を明かしていません。ですが一つだけはっきり言っているのは、2025年初頭に公開された過激なコンセプト「Vision Driving Experience」の1,341馬力には“到達させない”ということ。つまり、出せるからといって最大値を狙いにいくクルマではない、という宣言です。

その思想を端的に語ったのが、Functional Integration and Vehicle Dynamics Engineering部門を率いるクリスチャン・カルク氏です。Auto Express の取材に対し、彼はこう述べています。「馬力の話ではないんです。それはゲームの一部ではあるけれど、Mのクルマが持つ“精緻さ”、そこが唯一無二なんです」。

これは単なる広報の言い回しではありません。電動化の時代、出力はモーターを足せばいくらでも積み増せます。だからこそ「数字で語らない」と最初に線を引くこと自体が、Mというブランドの自己定義の更新になっている。要するにBMWは、馬力競争から意識的に降りる宣言をしているわけです。

『iM3』ではない。そして擬似ギアと擬似サウンドという答え

細かいですが象徴的な点として、このクルマは噂されていた「iM3」とは呼ばれません。あくまで「M3」。電動であることを名前で特別扱いしない姿勢が、ここにも出ています。

では、エンジンを失ったMはどうやって“らしさ”を担保するのか。BMWが用意した答えが、擬似的なギアチェンジと擬似サウンドです。BMW M開発責任者のアレクサンダー・カライロヴィッチ氏は Piston Heads に対し、これらが「不可欠(essential)」だと語っています。「サーキットでは、ギアがあることで各コーナーへどれだけの速度で入っているかが分かる。擬似的なレシオは、電動車でもその感覚を保つのを助けてくれる」。

サウンドについても凝っています。BMWは自社の名機たち——直列6気筒、V8、V10——の音を録音し、将来の電動Mに組み込む専用サウンドスケープの素材としました。直6の系譜を“録音”という形で電動世代に持ち越す、という発想です。なお擬似ギアもサウンドも、ドライバーがオフにできます。

ガソリンM3も残る。系譜は二股に分かれる

電動M3に拒否反応を示す層への配慮も用意されています。BMWは直6を積むM3の次世代も計画中。報道では2028年登場とされ、より厳しい排ガス規制に対応するためマイルドハイブリッドと組み合わされる見込みです。その代償として、マニュアルの廃止、そして後輪駆動版の消滅が示唆されています。xDriveには2WDに切り替えるモードがあるとはいえ、重量増という現実は残るためです。

つまりM3の系譜は、ここで明確に二股に分かれます。直6を守り続ける内燃機関版と、クアッドモーターで“精緻さ”を再定義する電動版。同じ名を冠しながら、思想の異なる二台が並走する時代に入るわけです。

勝負所は、重さをどう消すか

電動M3には100kWh超のバッテリーが搭載されることが確定しています。これは航続には効く一方で、Mが最も嫌う「重さ」を抱え込むことを意味します。馬力を追わないと宣言した以上、評価軸はいよいよ運転感覚そのものに移ります。重いバッテリーを積みながら、いかにあの“精緻さ”を出すか。BMWが自ら「(運転して)かなり素晴らしい」と語る市販版が、その言葉に見合うかどうか。系譜の継承が成功と呼べるかは、スペック表ではなくステアリングを握った瞬間に決まりそうです。

小鍛治康人(やすと)

この記事を書いた人

hodzilla51

クルマの系譜を追っていたら、いつの間にかサイトになっていました