「レプリカでもレストモッドでもない」155が740馬力で帰ってきた
四角いセダンが、いま最も熱い被写体になりました。新興ブランド、SGTアウトモビリがデビュー作として選んだのは、1993年のDTMを制したアルファロメオ155のトリビュートです。名前は「55 SGT」(英オートカー誌の表記では5S-SGT)。カーボンファイバー製ボディであの伝説のレーシングカーを忠実に再現しながら、公道走行可能というのがポイントです。
面白いのは、SGT自身が「これはレプリカでもレストモッドでもない」と強調していること。中身は現行のジュリア・クアドリフォリオ(QV)で、カーボンの皮の下には最新のスーパーサルーンが息づいています。要するに、当時の狂気じみたDTMマシンが「もし今つくられたら」という仮定を、現代のハードで具現化したわけです。
155という車が背負っていたもの
いまや155というセダンを覚えている人は、モータースポーツファンくらいでしょう。ただ、その戦績を思い出すと話は変わります。ソースも触れているとおり、155はイタリア、スペイン、イギリス、ドイツと、各国のツーリングカー選手権をさらっていった車です。とりわけ有名なのが、V6 TI仕様で1993年のDTMタイトルを獲得したこと。SGTがインスピレーション源に選んだのも、まさにこの最もワイルドなDTMコンフィギュレーションです。
そしてイギリス、つまりBTCCでの155も語り草です。当時のアルファのツーリングカーは、空力パーツをめぐる論争まで巻き起こしながら勝利を積み上げ、四角いセダンをレースの主役へと押し上げました。地味なファミリーセダンが「勝つための道具」に化けた──この振れ幅こそが155というモデルの本質であり、今回のトリビュートが狙っている文脈でもあります。日本語圏の速報記事はここを落としがちですが、SGTの55 SGTは単なる懐古ではなく、この「ツーリングカー覇者としての155」を現代に翻訳する試みなのです。
パワートレインは現行QVの2.9L V6ツインターボ
心臓は、クアドリフォリオの2.9リッターツインターボV6。ノーマルの513bhpから手を入れ、Stradale(ストラダーレ)仕様で最高612bhp(620PS)、トラック志向のTrofeo(トロフェオ)仕様で740bhp(750PS)/590lb-ft(800Nm)まで引き上げられています。組み合わされるのは8速ATで、上乗せされたパワーに耐えるよう強化済み。新設計の可変バルブ付き排気システムを備え、街中では静かに、サーキットでは開放的に振る舞えます。
駆動方式が四輪駆動なのは、レースで勝った歴代155と同じ発想です。トルク配分はドライバーが調整でき、さらに全パワーを後輪へ100%送るドリフトモードまで用意されました。オリジナルの戦績を四駆で築いた155へのオマージュとしては、なかなか気の利いた仕立てだと思います。
StradaleとTrofeo、そしてF1由来のエアロ
シャシーは大幅に手が入り、ドナーとなるジュリアQVに対して25%高いねじり剛性を実現。カーボンファイバー、ケブラー、そしてパガーニの姉妹会社が生んだ複合素材「カーボチタニウム」を多用して軽量化を図っています。車重はStradaleが1590kg、より過激なTrofeoはさらに100kg軽い1490kg。
Trofeoを選ぶ理由はほかにもあります。カーボン製ウィッシュボーン、トラックデーでのタイヤ交換を素早くこなす4輪一体ジャッキ機構、強化ブレーキ、そして最大460kgのダウンフォースを生むエアロパッケージ。しかもF1由来のDRSまで備えるという徹底ぶりです。DTMの狂気を現代の空力で再解釈する、という筋が通っています。
室内はDTMの緊張感に上質さを足した
キャビンもシャシー同様、ドライバー中心の思想で貫かれています。後席は取り払われ、代わりにロールバー(ロールケージ)と消火器が収まりました。フロントにはカーボンバケットシート、センターコンソールにはレース由来のスイッチ類を配したパネルが備わり、電磁ダンパーの硬さやデフ、エンジンマップの過激さまで操作できます。DTMの雰囲気を保ちながら、本物のレーサーや現行アルファロメオよりも上質、という絶妙な立ち位置です。
55台限定、変換費用は約50万ユーロ
生産はわずか55台。最初の10台は選ばれた顧客向けの「オープニングエディション」で、全車をワンオフ仕様に仕立てることも可能です。価格は非公表ながら、ドナーとなるジュリア・クアドリフォリオに加えて、変換費用がおよそ50万ユーロ(約57万ドル)とされています。SGTによればすでに4件の受注を確保済みで、オープニングエディションの残り枠は6つ。系譜好きの財布が動くのは早そうです。

この記事を書いた人
hodzilla51
クルマの系譜を追っていたら、いつの間にかサイトになっていました
