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シビックSiR - EF9 【Type Rの源流】

車種の概要

Type RのDNAを遡る 「赤バッジに宿る狂気は、どこから始まったのか?」 CIVIC Type Rという大看板の源流を探ると、必ず行き当たるのが1989年登場のグランドシビック SiR(EF9)です。 量産車として世 […]

  • hodzilla51
  • 6分で系譜を理解
シビックSiR - EF9 【Type Rの源流】

Type RのDNAを遡る

「赤バッジに宿る狂気は、どこから始まったのか?」

CIVIC Type Rという大看板の源流を探ると、必ず行き当たるのが1989年登場のグランドシビック SiR(EF9)です。

量産車として世界で初めてリッター100 psを達成したDOHC VTEC B16A、1 tを切る軽量ボディ、そして四輪ダブルウィッシュボーン――

この三位一体がホットハッチを国産車の常識に押し上げ、後続のType R群に揺るぎない設計哲学を授けることになります。

F1全盛と「新しいシビック」――開発着手の背景

1988年、ホンダはF1で年間15戦15勝という黄金期を迎えていました。

一方、市販車では排ガス規制と燃費競争でパフォーマンスが頭打ちになりつつあった。

「レーシングスピリットを市販車に取り戻せ」。そう語ったのが当時の本田技研研究所社長・川本信彦氏です。

F1直系テクノロジーをコンパクトカーに移植する――その旗印の下、4代目CIVICをベースにしたSiRプロジェクトがスタートします。

「どうせやるならリッター100馬力」

最初のVTEC試作機は140 psが目標でした。しかし、川本氏の一喝「どうせやるなら100馬力/ℓにしろよ」で開発陣の挑戦が始まります。

カムプロフィールを高速用・低速用で切り替える可変バルブ機構を磨き、許容回転数を8,000 rpmに引き上げ、最終的に160 ps/7,600 rpm・15.5 kgm/7,000 rpmを実現。

新里智則氏(当時パワートレイン主任)は「F1を公道で鳴かせるつもりだった」と回想しています。

「ヒラリ感」を追い求めて

4輪ダブルウィッシュボーンは、高価でもストロークしながらキャンバーを立てるというレースを見据えた攻めのレイアウト。

徹底した高張力鋼の部分使用で車重990 kgを達成し、パワーウエイトレシオ6.1 kg/psを誇りました。

開発ドライバーは「切った瞬間ノーズが吸い付く」と表現し、社内テストでは先代ワンダーシビック比で筑波1秒短縮を記録。

ブレーキは4輪ディスク、オプションLSDまで用意され、峠もサーキットも即戦えるクルマを目指しました。

当時の街とサーキットを席巻

発売当時、ホンダはテレビCMでB16Aのレッドゾーンに合わせて心拍計を振り切らせ、「Mind Blowing Civic」というコピーを掲下ていました。

若者は「6,000 rpmで人格が変わるクルマ」と呼び、深夜の大阪環状、峠ではVTECの切り替え音が毎晩聞こえてきます。今では考えられないですが…

峠では低速トルク不足をシフトワークでねじ伏せる腕試し文化が生まれ、ホンダの販促担当は「シビックがクルマよりドライバーを鍛える」と胸を張った。

最速の「出光MOTION無限シビック」

1990年、EF9はグループA全日本ツーリングカー選手権Div.3に投入。

車重800 kg/出力180 psへ仕立てた出光MOTION無限シビックはシーズン18戦15勝、ホンダに4年連続メーカータイトルをもたらします。

リア駆動勢を抑えて周回遅れにするレースもあり、海外メディアはWorld’s Fastest FFと絶賛しました。

市販車ファンの熱狂はさらに高まり、SiRの新車受注は想定を30%超過したといいます。

SiRがType Rに残した三つのDNA

そんなSiRは後年のType Rに重要な思想をいくつも残します。

まずは高回転NA主義。B16Aが拓いた回してパワーを取る思想は、B16B(EK9)、K20A(FD2)はもちろん、現行K20Cについても不変です。

メガーヌをはじめとする欧州FFと比較しても、Type Rは高回転で威力を発揮する特性を持っているのは、このDNAを引き継いだ結果なのです。

そして、徹底した軽量化。SiRの樹脂インナー&薄板思想は、EK9でのシーム溶接・軽量ガラス、FK8のアルミボンネットへと発展します。

最後にサーキット直結開発。外装より機能優先という割り切りは、カップカー直系の空力パーツや専用足回りに連綿と受け継がれています。

そして“赤バッジ”へ――直系子孫EK9

EF9から8年後、初代CIVIC Type R(EK9)が登場する。型式末尾「9」はSiRへのリスペクトであり、エンジニアは「EF9で得た歓びを、さらに鋭く濃く」と語った。B16Bは185 psを発揮し、車重は1,070 kg。EF9が切り拓いた設計思想は、赤バッジというブランドとして結実することとなります。

おわりに――“回せば世界が変わる”精神

グランドシビック SiRは、ホンダが市販車でもレーシングスピリットを貫けることを証明した大事な一台です。

エンジンが6,000 rpmを超えた瞬間、風景がワープする――その感覚こそが今日のType Rまで続くホンダの原点であり、「操る歓び」の象徴なのです。

今なおEF9のステアリングを握るオーナーが口を揃えて言います。「このクルマは、回さなきゃ始まらない」。30年以上前に刻まれた熱狂は、令和の今も色褪せず、脈々と受け継がれているのです。

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